御刀さまと花婿たち


  *  *  *


 刀鍛冶が打つ刀は、ひと振りではない。
 何振りもの刀を打ち、とくにすばらしい出来のものを納めるのだ。
 これを真打(しんう)ち、それ以外の刀を影打(かげう)ちという。

「おなじく九条蘇芳さまが打たれたという点では、わたしたちは姉妹にちがいありませんわ」

 少女──天鼓丸がほほ笑む。

「まぁ……あなたはわたしの影。言うなれば出来損ないなのですけどね。可哀想なお姉さま」

 天鼓丸は吐息を吹き込むように、耳もとでささやく。

「……出来、損ない……」

 鼓御前は、頭が真っ白になった。

「それでも、お父さまは慈悲深いお方ですからね。不届き者にかどわかされてしまったお姉さまを、ずっとさがしておられたのですよ」
「そうだ……それだのに、人間風情が私の邪魔を。だから呪ってやったのだ。忌々しい痣をしるしにな!」

 ぎりり、と奥歯をきしませる蘇芳。
 一方で、くすくすと笑みをもらす天鼓丸。
 彼らを、鼓御前はぼんやりと見つめていた。

「紫榮は私からおまえを奪い、じぶんの手柄にした。私は私の刀を取りもどそうとしただけだ。奪ったのは紫榮だ、愚かな人間どもだ!」

 蘇芳が叫ぶ。
 その憎悪に呼応して、闇が揺れた。

「ひとときでも、人間にもてはやされてしまったから、いい気分になってしまったのですね。ほんとうに可哀想なお姉さま……でも、思いだしてくださいな」

 天鼓丸は鼓御前の肩に手を置くと、美しい笑みで告げる。

「あなたはほこりっぽい蔵に閉じ込められて、わたしは神社の奥で、結界に守られながら数百年もの時をすごしたのです。どちらが優れているのかなんて、もうおわかりですよね?」

 つまり、取るに足りない存在なのだと、鼓御前に知らしめたいのだ。

(わたしは、天鼓丸の出来損ない……)

 ……頭が痛い。

(そう……わたしは無知で、いろんな方に迷惑をかけて……)

 知らないうちに、みなにどれだけの苦労をかけさせてしまっただろう。
 悩み、後悔したこともある。
 ひとの醜さに、恐怖したことだって。

(……だけど)

 ──姉さま。
 ──つづ。
 ──天。
 ──つづちゃん。

 これだけは。

 ──鼓御前さま。

 これだけは、忘れることはできない。

 ──おれが鼓御前さまを傷つけることはありません。ぜったいに。

 名を呼ぶ声が、見つめるまなざしが、純粋なものだったこと。
 彼らとともにすごした日々が、かけがえのない想い出であること。

「……いで…………さい……」
「なんですって?」
「……これ以上、侮辱しないでください」

 だからこそ鼓御前は、声をあげる。

「みなさんとこころを通わせた日々は、無駄ではなかった」

 おのれが出来損ないだとするなら。
『天鼓丸』の呪縛から、いまこそ解き放たれるとき。

「わが名は鼓御前! 天に誓う。このこころが折れることは、けっしてないと!」

 覚悟をやどした声が、ひびきわたる。
 そのとき。

 ──ばりばりばりぃっ!

 ひとすじの稲妻が、闇を引き裂いた。