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刀鍛冶が打つ刀は、ひと振りではない。
何振りもの刀を打ち、とくにすばらしい出来のものを納めるのだ。
これを真打ち、それ以外の刀を影打ちという。
「おなじく九条蘇芳さまが打たれたという点では、わたしたちは姉妹にちがいありませんわ」
少女──天鼓丸がほほ笑む。
「まぁ……あなたはわたしの影。言うなれば出来損ないなのですけどね。可哀想なお姉さま」
天鼓丸は吐息を吹き込むように、耳もとでささやく。
「……出来、損ない……」
鼓御前は、頭が真っ白になった。
「それでも、お父さまは慈悲深いお方ですからね。不届き者にかどわかされてしまったお姉さまを、ずっとさがしておられたのですよ」
「そうだ……それだのに、人間風情が私の邪魔を。だから呪ってやったのだ。忌々しい痣をしるしにな!」
ぎりり、と奥歯をきしませる蘇芳。
一方で、くすくすと笑みをもらす天鼓丸。
彼らを、鼓御前はぼんやりと見つめていた。
「紫榮は私からおまえを奪い、じぶんの手柄にした。私は私の刀を取りもどそうとしただけだ。奪ったのは紫榮だ、愚かな人間どもだ!」
蘇芳が叫ぶ。
その憎悪に呼応して、闇が揺れた。
「ひとときでも、人間にもてはやされてしまったから、いい気分になってしまったのですね。ほんとうに可哀想なお姉さま……でも、思いだしてくださいな」
天鼓丸は鼓御前の肩に手を置くと、美しい笑みで告げる。
「あなたはほこりっぽい蔵に閉じ込められて、わたしは神社の奥で、結界に守られながら数百年もの時をすごしたのです。どちらが優れているのかなんて、もうおわかりですよね?」
つまり、取るに足りない存在なのだと、鼓御前に知らしめたいのだ。
(わたしは、天鼓丸の出来損ない……)
……頭が痛い。
(そう……わたしは無知で、いろんな方に迷惑をかけて……)
知らないうちに、みなにどれだけの苦労をかけさせてしまっただろう。
悩み、後悔したこともある。
ひとの醜さに、恐怖したことだって。
(……だけど)
──姉さま。
──つづ。
──天。
──つづちゃん。
これだけは。
──鼓御前さま。
これだけは、忘れることはできない。
──おれが鼓御前さまを傷つけることはありません。ぜったいに。
名を呼ぶ声が、見つめるまなざしが、純粋なものだったこと。
彼らとともにすごした日々が、かけがえのない想い出であること。
「……いで…………さい……」
「なんですって?」
「……これ以上、侮辱しないでください」
だからこそ鼓御前は、声をあげる。
「みなさんとこころを通わせた日々は、無駄ではなかった」
おのれが出来損ないだとするなら。
『天鼓丸』の呪縛から、いまこそ解き放たれるとき。
「わが名は鼓御前! 天に誓う。このこころが折れることは、けっしてないと!」
覚悟をやどした声が、ひびきわたる。
そのとき。
──ばりばりばりぃっ!
ひとすじの稲妻が、闇を引き裂いた。



