御刀さまと花婿たち

「きーちゃあん……」

 桐弥が九条家にもどると、一匹の狐がぺたりと倒れ込んでいる場面に遭遇した。

「妖力すっからかんよぉ……アタシもう、クッタクタぁ……」

 力を使いはたして、ひとのすがたを取ることができなくなっているのだろう。
 桐弥は「ふ……」と口もとをゆるませ、畳に転がった虎尾を抱きあげる。

「上出来だ」
「あら……なんできーちゃんがドヤ顔してるの?」
「べつに。それだけおしゃべりできるなら問題ないな」
「んもぉ、すぐそういうこと言う~」

 言葉のわりには、ふさふさの毛並みをなでる桐弥の手つきはやさしい。
 虎尾もきもちよさそうに目を細めて、すり寄った。

「ふぅ……なんとか、なりました」
「やればできるものだなぁ」

 畳に座り込んだふゆと紫陽が、疲労をにじませながらも、笑みを浮かべて見上げてくる。
 達成感に満ちた表情のふたりに見守られ、葵葉は部屋の奥へ歩みを進める。

「……立花センセ」

 千菊は、相変わらず布団に横たわっていたけれど。
 伏せられたまつげがふるえ、ゆっくりとまぶたが持ち上がる。

「……あおば……」

 青玉の瞳がぼんやりとさまよった末、葵葉を映した。

「……よかった……あるじっ!」

 熱いものが、葵葉の胸にあふれる。
 名を呼ばれることは、こんなにも喜ばしいのだと。