御刀さまと花婿たち


  *  *  *


『祠』の正体は、地下深くへ続く洞窟だった。

「真っ暗だな」
「少々お待ちを」

 おもむろに、ひながふところから霊符のようなものを取りだす。

 ──ぼう!

 炎のようなものによって、洞窟内が照らされた。
 鬼火という式神だ。
 莇が使っていたので、葵葉も見おぼえがあった。

「やるじゃん」
「女の身なれど、多少は霊力がございますので」

 どこまでも続く下り坂を、葵葉とひなはひたすらに進む。
 やがて、しめ縄が何重にも張りめぐらされた場所へたどり着く。
 奥には祭壇があり、石碑が立っている。

「なんか、いかにもって感じ」
「ここが、先人の眠る場所……」

 ひなは注意深くあたりを見まわす。
 当然ながら、この場所にはじぶんと葵葉しかいない。

 ──……ヲ…………セ……

「──っ!?」

 だというのに、声が聞こえたのだ。

「どうした?」
「だれかの、声がしました……」

 ──チヲ、シメセ。

「『ちを、しめせ』…………血?」

 ……カッ!

「きゃっ……!」

 突如として、祭壇が光を放つ。
 まばゆい閃光。
 目がくらんだ一瞬のうちに、古びた一冊の書物がひなの前に現れる。

「これは…………いたっ!」

 思わず手をのばすひなだが、ふれる直前でバチィッ! と指先をはじかれてしまう。

「大丈夫か?」
「えぇ……おそらく、封印の術がかかっていますね」
「流れ的にソレに『真実』とやらが書いてそうなんだけど、どうしたもんか」
「血を示す必要があるのかと。……葵葉さま、短刀をお貸しいただけませんか」
「いいけど、まさか……」
「そのまさかです」

 するすると、右手の包帯をほどくひな。
 そして葵葉から受け取った短刀の鯉口を切ると、まだふさがっていない傷口へ押し当て……

「……っ!」

 ひと思いに、刃をすべらせた。
 ぽたぽたと、地面に血がしたたり落ちる。

「私は神宮寺家の娘、ひなと申します。鬼塚をめぐる『真実』を明らかにすべくやってまいりました。どうかお力添えください!」

 ひなの声が、洞窟内を反響する。
 けれど、宙に浮いた書物は、微動だにしない。

「どうして……? やっぱり私じゃだめなの? 鼓御前さまを、莇を助けるためには、どうしてもこの先に進まないといけないのに……!」
「落ち着け。焦ったってしょうがないだろ」
「でも……!」
「あんたに『祠』のことを話したのは、姉さまなんだろ。ほかになにか言ってなかったか? 思いだしてみろ」
「鼓御前さまが、おっしゃっていたのは……」

 ──『祠』に行けば、『真実』をつまびらかにすることができる。

「ちがう……ほかに、おっしゃっていたことは……」

 ──鬼塚家について、わたしたちは認識をあらためる必要があります。

「……認識を、あらためる?」

 鬼塚家といえば、呪われた存在として忌み嫌われてきた一族だ。
 無闇に話題にしたり、ふれてはいけないもの。
 それが、この島の暗黙の了解だった。
 けれども、それこそが間違いなのだとしたら?