御刀さまと花婿たち


  *  *  *


 未明のこと。九条家に訪問客があった。
 母屋にある大広間で、桐弥は客人たちと面会をする。
 面布で素顔を隠した黒袴の男たち。
 全身黒ずくめのいでたちは、現役を退いた覡のものだ。

「御三家当主のうち、一名が行方不明、一名が危篤でございます」

 おとずれた三名の男のうち、ひとりが口をひらく。

「一刻もはやく御刀さまを救出しなければ、わが兎鞠島に明日はないでしょう」
「つきましては、『ご英断』をなにとぞお願い申しあげます──九条紫榮さま」

 男たちは口々に桐弥へ進言すると、一礼ののち、大広間をあとにする。
 彼らが去ってなお、桐弥はじっとまぶたを閉じたまま、しばし沈黙していた。



「……桐弥さま!」

 ようやく桐弥が部屋を出たところで、ひなが駆け寄ってくる。

「『典薬寮』のみなさまは、なんと……?」
「この状況だ。総力戦となる。『鬼』を発見した場合、依代ともども殲滅対象とのことだ」
「そんなっ……! 莇を見殺しにしろということですか!?」
「それが『上』の決定だ」

 神宮寺苧環(じんぐうじおだまき)が昨日より行方不明。
 そして『鬼』と交戦した立花千菊が、意識不明の重体だ。
 夜を徹して千菊への集中治療がおこなわれているが、状況は厳しい。
 さらに、『鬼』が憑依したとされる莇の救出活動も打ち切られた。
 つまり見つけしだい、『鬼』もろとも斬り捨てろという命令である。

「うそ……どうして、こんなことに……っ」

 ひなが両手で顔を覆い、わっと泣きだす。
 桐弥は視線を伏せ、黙り込む。
 下手な慰めは、ないほうがいい。そうとはわかっているけれど。

「『上』の決定はまっとうな意見だ。だが僕個人としては、納得したわけではない」
「……桐弥、さま……?」

 桐弥はひなに目配せをしたのち、歩を進める。
 ひなも桐弥に続く。
 足早に縁側を通り抜け、最奥にある部屋へ向かった。
 そこには、布団に横たわった千菊。
 そして治療を続ける虎尾のすがたがある。

「立花センセ……」

 部屋の隅には葵葉が座り込んでいる。
 表情はうつろで、ぬけがらのようだ。

「容態は」
「相変わらずよ。袈裟斬(けさぎ)りだなんて、殺意高すぎったらありゃしないわね」

 止血はなされたが、いかんせん出血量が多すぎた。
 千菊が目覚める様子は一向になく、その顔色は真っ白だ。

「傷口の治療だけならなんとかなったけど……そう簡単にはいかないってことね」

 虎尾の両手から発された光が、千菊の表皮にしみ込み、再生能力にはたらきかける。
 だが左肩から右腰骨にかけて斬られた傷口がふさがることはなく、ばちんっとはじけた光が消滅する。

「瘴気に妨害されてるの。穢れを祓わなきゃ、これ以上の治療はできないわ」
「祓えるのか?」
「祓うだけなら。でもアタシの力じゃ、立花センセにがんじがらめになった穢れをほどくので、せいいっぱいよ」
「治療する余力を、残せないということか……」

 覡の霊力は、人間相手には治癒効果を発揮しない。
 虎尾が人間に対して高い治癒能力を発揮するのは、豊富な妖力を、癒やしの力に変換しているから。
 その虎尾でさえ治療できないとなれば、待ち受けるのは『死』だ。