御刀さまと花婿たち

 ざわざわと、庭の木々が枝葉をゆらしている。

「……妙な風が吹くわね」

 茜に暮れる空をあおいでいた虎尾(とらお)は、縁側から部屋へもどる。
 するとやはり。
 座布団に腰を落ち着けた鼓御前(つづみごぜん)が、虎尾がしていたように、じっと外を見つめていた。

「鼓御前さま……いかがなされましたか?」

 活動的でひとと話すことを好む鼓御前が、黙り込んで一日中考え事をしている。
 そうなれば、心配したひなが問いかけるのも無理はなかった。
 朝からずっとこの調子だ。
 鼓御前の異変のわけに心当たりがある虎尾は、あえてふみ込むことはせず、見守る。

「ひなさんは、鬼塚(おにづか)家について、どういったことを知っていますか?」
「鬼塚家、でございますか?」

 そんなときに、この唐突な質問だ。
 ひなは困惑しつつ、こわごわと口をひらく。

「申し訳ございません。鬼塚家については、あまり詮索をしないよう言いつけられておりまして」

 神宮寺(じんぐうじ)家の血を継ぐ者のなかで、痣を持って生まれた男児のみが、鬼塚家へ養子に出される。
 体質的に過剰な霊力に悩まされることが多く、その制御法をまなぶためだ。
 それは、この島に住むだれもが知ることだが。

「ただ……ひとつだけ、耳にしたことがあります」
「なにを、ですか?」

 ひなはすぐに答えない。
 口にするのははばかられる内容なのだろう。
 しばらく迷ったのち、ひなは悲しげにつぶやいた。

(あざみ)もそうでしたが……『痣持ち』が神宮寺家を出るさい、短刀を持たされます。万が一のことが起きた場合に、自害するためだと言われております……」
「胸くそが悪くなる話ね。頭のかったいじじいどもは、だれがこの島を守ってきたと思ってるのかしら」

 立花(たちばな)家と鬼塚家。
 このふたつの家系が、圧倒的な〝(ヤスミ)〟の討伐数を誇る。
 だというのに、立花家が賞賛される一方で、鬼塚家が日の目を見ることはない。
 まるで、光と影のように。

「鬼塚家について、わたしたちは認識をあらためる必要があります」
「鼓御前さま……?」
「鬼塚家には、どこかにご先祖の方々を祀る『祠』があるのだそうです。そこに行けば、『真実』をつまびらかにすることができる」

 うわごとのように、鼓御前は言葉をつむぐ。

「失礼ですが、そのお話は、いったいどこで……」

 ひなは問いかけようとして、はっとする。
 紫水晶のまなざしが、じっとこちらを見つめていたのだ。
 鼓御前の言葉は、おのれに向けられたもの。
 そうひなが気づいたとき。

「神宮寺ひな殿はおられるか」

 部屋の前に、竜胆(りんどう)がやってきた。
 その面持ちは険しい。
 まさかじぶんが呼ばれるとは思わず、ひなは身を固くする。

「はい、九条(くじょう)さま。いかがなさいました……?」
「こちらへ。火急の報が」
「ですが……」

 ひなは一度、鼓御前をふり返る。
 御刀(おかたな)さまのそば仕えが席を外すのは、ためらわれたのだろう。
 だが、鼓御前は黙って目配せをするのみ。
「わかりました」とうなずいて、ひなは竜胆のもとへ向かった。

「…………なんですって! それはまことでございますか!」

 やがて、おどろきと戸惑いに満ちたひなの声がひびく。
 虎尾はひそかに様子をうかがい、竜胆のくちびるの動きを読む。
 そしてととのった眉をひそめた。
「お父上が行方不明になられた」──そう読めてしまったために。