* * *
「御刀さま……鼓御前さま!」
号を、名を呼ばれている。
意識を清明に浮かぶ。
鼓御前がはっと飛び起こした上体を、和服すがたの少女が支えてくれた。
「お目覚めになったのですね、鼓御前さま!」
「……ひなさん?」
ひながいるということは、ここは兎鞠神社にある住居を兼ねた社務所の一室なのだろう。
じぶんが先ほどまで横たえられていた羽毛のようにやわらかいもの、それを鼓御前は知っている。
『布団』だ。
実際に使うことになるのは、はじめてだけれど。
「ひなさんがお世話をしてくださったのですね。ありがとうございます」
「めっそうもありません! それが私のお役目ですもの」
「……葵葉は?」
「ご無事でございます。鼓御前さまは〝慰〟を斬られたさい、穢れを受けてお倒れになり……お目覚めになられて、ほんとうにようございました!」
「〝慰〟……」
はらりと安堵の涙を流すひなの言葉を、鼓御前はそっとくり返す。
右手をこめかみに当て、まだぼんやりとつっかえた思考をめぐらせる。
そのうちに、はたと我に返った。
(足の重みが……穢れが、ないわ!)
『不浄のモノ』を斬り伏せた。
そのせいで受けたはずの穢れが、跡形もなく消え去っているのだ。
「〝慰〟の穢れは九条さまが取り除いてくださいましたので、ご心配いりません」
「その九条さん、という方は……?」
「『典薬寮』から派遣された、御手入れ専門の覡さまです。凄腕の手入れ師として有名なんです」
〝慰〟……穢れ、手入れ。
そうだ、思いだした。
たしかに穢れは祓われた。
その代わり、燭台に火を灯すようにあたたかいものが、鼓御前の身を満たしている。
清廉で心地よいこれは。
どこか懐かしい、この霊力は。
(……行かなくては!)
確信に突き動かされた鼓御前のからだは、無意識のうちに布団を跳ねのけていた。


