御刀さまと花婿たち


  *  *  *


「……そんな……では、鬼塚家の方々は……」

『真実』を聞いた鼓御前は、絶句した。
 すべてを語り終えた莇の表情は、じつに凪いだものだった。

「これを知ったところで、おれにできることはそう多くありません。ですが、なにもせずに後悔だけはしたくないのです」

 つまり、莇は『なにか』を成し遂げようとしている。
 今後を左右する、大きな決断に迫られながら。

「鼓御前さま……お手を、拝借しても?」

 ふと、莇が声をひそめる。

「はい、どうぞ」

 鼓御前が右手をさしだすと、どこか緊張した面持ちの莇が、表情をやわらげる。

「では、失礼して」

 莇は左手でそっと鼓御前の手を取る。
 そして右手の人さし指で、ゆっくりと、鼓御前の手のひらをなぞった。

「これは……」

 なにか、文字を書いている。
 なにかをつたえようとしている。

「口にするのは、はばかられますので」
「莇さん、これは、もしかして……」
「おれのこころが、あなたさまとともにあるというあかしです。……鼓御前さまに、知っていてほしくて」

 莇はそういうと、ふいに鼓御前の耳もとへくちびるを寄せ。

「────」

 たったひと言だけ、ささやくように告げた。

「…………ごめんなさい。こんなことを言うの、はじめてで」

 からだを離した莇はうつむきがちで、耳はすこし赤らんでいた。
 なにを言われたのか。
 それを遅れて理解した鼓御前は、じんと目頭が熱くなるのを感じた。

「そんな、わたし、どうしたら……莇さんにお返しできるものが、思いつきません……」
「お礼は大丈夫です。これはおれの自己満足ですので」
「でもそれじゃあ、わたしの気がすみません……!」

 鼓御前は、意地でも引き下がらなかった。
 ここで終わりにしてはいけない。
 直感が、そう告げていたのだ。

「わたしにできることは、なんでもします。莇さんのねがいを教えてください」
「鼓御前さまが、そうおっしゃるなら……」

 すこし考えるそぶりがあって、莇はちらりと鼓御前を見る。

「おれ……あんまり、ほめられたことがなくて。そういうのを求めるのは甘えだって、おれも思ってたんですけど……でも、おれたちはじぶんで思ってる以上にこどもだって、葵葉に言われましたし……」

「だからですね、その……」と、何度か言いよどみつつ、莇は意を決したように告げる。

「おれ、がんばります。なのでちゃんとできたら……頭を、なでてもらえますか……?」
「莇さん……」

 気恥ずかしいのだろう。
 莇の顔は、暗がりでもわかるほどに真っ赤だった。
 なんと純粋で、なんと無垢なこころなのだろう。
 鼓御前はいまにでも手をのばしたい気持ちを、押しとどめる。

「もちろんです」

 かわりに力強い答えを返しながら、莇の手をにぎった。
 鼓御前のものよりひとまわり大きくて、ゴツゴツとした感触だった。
 マメがつぶれて、硬く厚くなった手。
 どんなときも刀をにぎり続けてきた、努力のあかしだ。

「おれが鼓御前さまを傷つけることはありません。──ぜったいに」

 莇も誓うように、鼓御前の手をぎゅっとにぎり返したのだった。