* * *
衣ずれの音がして、鼓御前は目をさます。
つつみ込む腕のぬくもりが、なくなっていた。
「……かかさま……?」
気だるいまぶたをこすると、薄暗いなか、布団から身を起こした虎尾のすがたが見えた。
唐茶色のまなざしは、鼓御前ではないどこかを、じっと見つめている。
「まだ夜明け前よ。こんな時間にやってくるなんて」
虎尾は障子に向けて、静かな言葉を放つ。
(どなたか……いらしたんだわ)
そのことに気づいた鼓御前は、布団から起きあがる。
「非礼をおわびいたします」
「……このお声は」
返答した声は、聞き慣れた少年のものだ。
障子の向こうにいる人影が、だれなのか。
虎尾はすでにわかっていたのだろう。
静かな声音のまま、言葉をつむぐ。
「求めていた答えは、得られたようね」
「はい。本日は、鼓御前さまとお話をさせていただきたく」
「ふたりきりで、ね。アタシがこの子をひとりにするとでも?」
「お時間は取りません」
「……このまま帰るつもりはないみたいね」
虎尾はひとつ息をつくと、鼓御前へ向き直る。
「たぶん大丈夫だと思うけど、なにかあれば呼んで」
ふわりとほほ笑んだ虎尾が、やさしい手つきで頭をなでる。
あっさり引き下がったのは、相手が鼓御前にとって安全な存在だと判断したからだ。
虎尾は立ちあがって障子をひらくと、
「つづちゃんを泣かすことだけは、しないでね」
ひと言だけ言い残し、部屋を出ていった。
障子のすきまから、そよ風が舞い込む。
鼓御前は、じっと目をこらす。
「莇さん……」
やはり。思ったとおりの少年が、そこにいた。
「御前を失礼いたします」
莇は一礼すると草履を脱ぎ、縁側からあがり込む。
部屋に入ると障子を閉め、真白い足袋で畳のふちをまたぐ。
一直線に鼓御前へ歩み寄る足取りに、ためらいはなかった。
「おやすみのところ、申し訳ありません。本日は、折り入ったお話がございまして」
鼓御前の目前でひざを折った莇は、まず謝罪を口にする。
ここで鼓御前は、『違和感』に気づいた。
「莇さん、首が……」
莇が人目にふれることをよしとしなかった首を、さらけだしていたのだ。
鼓御前は息をのむ。
まるで刎ね飛ばした首を、つなぎ合わせた痕のよう。
それが、莇の首にきざまれた痣の全容だった。
間近にして、その痛々しさをようやく思い知る。
「鬼塚について、過去の記録を調べました。そしておれは、『真実』を知りました」
「『真実』……」
「鬼塚と『墓荒らしの鬼』の関係。おれが……何者なのか」
莇はひとたび口をつぐむ。
彼はいま、なにを思っているのだろう。
はやる気持ちをぐっと堪え、鼓御前が耳をかたむけたとき。
「鼓御前さまに、すべてお話しします。この痣にからみついた、因果の真相を」
莇は首の痣にふれ、語りはじめる──



