御刀さまと花婿たち


  *  *  *


 兎鞠島の北部にある山奥で、ひっそりとたたずむ鬼塚家。
 その敷地内のどこかには、祖先を祀る『(ほこら)』があるという。

 ──バチィンッ!

 全身に電撃が走り、視界が白くはじける。
 次の瞬間には、莇はその場にくずれ落ちていた。

「くっ……はぁっ、はぁっ!」

『祠』は、しめ縄が張りめぐらされ、外部から一切の光をとり込まない閉鎖空間だった。
 赤い鬼火が煌々と周囲を照らすなかで、莇は地面に座り込み、荒い呼吸をくり返す。
 莇のそばには、首を覆っていた薄青色のストールと、一冊の古びた書物が落ちていた。
 その書物を手にしたとたん、莇は異変に襲われたのだ。

「……ま、さか……」

 息苦しさと激しい頭痛に耐えながら、莇は声をもらす。

「それなら、鬼塚家は……おれたちは……っ!」

 首の痣が、疼く。
 おのれをさいなんできたものの正体を、莇は知ってしまった。
 鬼塚家が『鬼』の名を冠し、忌み嫌われてきたその理由(わけ)を──

「行かな、ければ……!」

 よろめきながら立ち上がった莇は、追い立てられるように駆けだす。
 浅葱の裾をはためかせながら、駆けて駆けて駆けて。
 やがてまばゆい陽光に満たされた『祠』の外へ出たとき、つと立ち止まる。

「御刀さまのところへ行くつもりだな」

 梶の紋。
 神宮寺家の家紋がほどこされた黒羽織をまとった痩身の男が、立ちはだかったためだ。

「……当主殿」

 神宮寺苧環。血縁上は莇の父である男だ。
 だが、疎遠だった年月が長すぎた。
 苧環を父と呼ぶことに、莇はいまだすくなくない抵抗を感じていた。
 苧環は太刀を()いている。理由は、考えるまでもない。

「『真実』を知ったところで、おまえにできることはない」
「……やはり、『すべて』をごぞんじだったのですね」

 苧環の物言いから、莇は察した。
 長年胸につっかえていたもの。苧環の行動の真意を理解し、静かにまぶたを閉じる。
 祈りにも似た沈黙ののち、莇はいま一度、その視線で苧環を見据える。

「お通しねがいます」
「断る。おまえを御刀さまのもとへ行かせるわけにはゆかぬ」
「通してください」

 ザッ──……
 莇が一歩をふみだしたとき、苧環はぞわりと悪寒にみまわれる。

「おれは、鼓御前さまのところへ行くんだ」

 それはまさに、鬼気迫る表情。
 首をさらけだした莇を中心に、濃密な霊力が渦を巻く。

「…………愚かなものよ」

 苧環はぽつりと独りごちる。
 そして、太刀の柄に手をかけたのだった。

「ならば……私の屍を越えてゆくがいい」