御刀さまと花婿たち


  *  *  *


 目の冴えるような青空に、太陽が南中する。
 このころには、相次ぐ訪問客でせわしなかった九条家の屋敷内も落ち着きを取りもどす。

「あらあら、寝ちゃった」

 すぐれた自己再生能力により、腹の傷はとっくに完治した虎尾ではあるが、布団から抜けだせずにいた。

「わるものを、やっつけるには……むにゃむにゃ……」

 さきほどまで難しい顔で考え込んでいた鼓御前が、うとうとし始めたのだ。
 虎尾のひざへなだれ込むようにして寝入るのも、あっという間だった。

「どこぞの狐のせいで、昨晩から一睡もしていないからな。緊張の糸が切れたんだろう」
「手厳しいわね……反省してるわよ」

 虎尾の部屋には、ほかに桐弥が残った。
 ひとしきり桐弥と会話して、虎尾はふとなつかしむ。
 こうして気兼ねなく話すのは、ひさしぶりな気がする。

「おまえも親なら、子守りくらいやれ」

 桐弥は鼓御前を一度抱き起こして、布団にそっと横たえる。
 むろん虎尾のとなりに、だ。
 口ではそっけないことを言うのに、行動は真逆だ。
 虎尾は唐茶色の瞳で、鼓御前に布団をかける桐弥をじっと見つめる。

「ねぇ、『あなた』って呼んでもいい?」
「……それは語弊があるぞ」
「好きにしていいんでしょ?」
「…………」
「じゃあ、きーちゃん」
「……どうにでもしてくれ」

 早々に白旗をあげる桐弥。
 虎尾は思わず笑ってしまった。
 冗談でも、物はためしに言ってみるものだと。

「夕飯までには呼びにくる。……今晩はいなり寿司らしい」
「えぇっ、ほんと!?」
「なんか出てるぞ」
「あらやだ、アタシったら。しまってしまって……と」

 ぴょこん! と頭から生えた狐の耳を、虎尾は押さえ込んで隠す。

「わかったら、さっさと寝ろ」
「はーい、きーちゃんもゆっくり休んでね」

 虎尾は手をふりながら、部屋を出る桐弥を見送った。
 すたんと障子が閉じられると、心地よい静けさにつつまれる。

「それじゃあアタシも、かわいいお姫さまとお昼寝しましょうかしらねぇ。んふふ」

 虎尾も横たわり、鼓御前を抱き寄せる。
 すぅすぅと、健やかな寝息が聞こえる。
 笑みがこぼれて仕方ないのを感じつつ、虎尾はまぶたを閉じた。

 解決すべき問題は山積みだけれど。
 いまだけは、このおだやかなひとときにひたることを許してほしい。