『奉納祭』にて、御刀さまを襲った犯人について。
先日兎鞠神社に出現した〝慰〟と交戦した神宮寺家の覡四名のうち、意識不明の重体に陥っていた者だった。
医療機関で集中治療を受けていたが、『奉納祭』開始直後に失踪。
御刀さまを襲撃後、行方を追っていた九条家の覡により捕縛された。
調査の末、瘴気反応の痕跡が検知された。〝慰〟に取り憑かれていたと見られる。
〝慰〟が人間に憑依する事例は、前代未聞である。
これを受け、『典薬寮』は対策本部を設置。
総力をあげて、〝慰〟の捜索に乗りだした。
そして特級神使、立花千菊により、当事案について有力な情報をもっているとされる『重要参考人』へ聴取がおこなわれる。
「──『ソレ』の存在をアタシが知った経緯を説明するには、千年前までさかのぼる必要があるわ」
一級神使、虎尾。
しかしてその実態は、平安の世より生きるあやかし、九尾の狐である。
「はじまりは、紫榮さまが亡くなられた後のこと。病が悪化したと風のうわさで聞きつけてアタシが駆けつけたころには、手遅れだった……それだけじゃない。『天鼓丸』のすがたが、どこにもなかったの」
「……やはり」
桐弥は紫水晶の瞳を険しく細める。
紫榮は『天鼓丸』を神社に奉納することを望んでいたものの、取りはからってもらうための猶予がのこされていなかった。
ならばせめて、わが子とはなればなれにならぬように。
紫榮は病床で『天鼓丸』を抱いたまま、最期をむかえた。
だが、ともに土に還ることは叶わなかった。
紫榮がこの世を去った直後、彼のもとから『天鼓丸』を持ち去った者がいるということだ。
「もちろん血まなこになってさがしたわよ。でも、すぐには見つけられなかった。アタシがやっとこの子を見つけたときには、五百年の時が流れていて……雷に撃たれた後だった」
「母さま……」
虎尾はかたわらに寄り添う鼓御前へ視線を落とすと、頭をひとなでした。
時は戦国の世。
虎尾は蘭雪にかわって『天鼓丸』が落雷を受け、損傷した場面に居合わせた。
「数百年の時がたっていることを抜きにしても、蘭雪さまがこの子の失踪に関わっていないことは、ひと目でわかったわ」
蘭雪が紫榮のもとから『天鼓丸』を持ち去った本人でないことはもちろん、その関係者でないことも明白だった。
盗みをはたらく卑しい人間が、焼けてしまった刀をひたむきに案じるはずがないのだ。
そうした蘭雪の姿勢に、虎尾も惹かれるものがあった。
たいせつに後世へつたえていくことを条件に、虎尾は焼けた『天鼓丸』の刀身を磨上げたのち、蘭雪へ託したのだという。
「ふたたび銘を切らなかったのは、嫌な予感がしたからよ」
「嫌な予感、ですか」
虎尾をじっと見つめたまま、千菊が問う。
葵葉、莇も、固唾をのんで虎尾の言葉の続きを待った。
「そう、嫌な予感。『天鼓丸』を求めて、また盗人がやってくるんじゃないかってね。紫榮さまが亡くなってから五百年以上もたってるのに、可笑しな話よね」
「でも」とここで口をつぐんだ虎尾が、しばしの沈黙ののち、絞りだすようにつぶやく。
先日兎鞠神社に出現した〝慰〟と交戦した神宮寺家の覡四名のうち、意識不明の重体に陥っていた者だった。
医療機関で集中治療を受けていたが、『奉納祭』開始直後に失踪。
御刀さまを襲撃後、行方を追っていた九条家の覡により捕縛された。
調査の末、瘴気反応の痕跡が検知された。〝慰〟に取り憑かれていたと見られる。
〝慰〟が人間に憑依する事例は、前代未聞である。
これを受け、『典薬寮』は対策本部を設置。
総力をあげて、〝慰〟の捜索に乗りだした。
そして特級神使、立花千菊により、当事案について有力な情報をもっているとされる『重要参考人』へ聴取がおこなわれる。
「──『ソレ』の存在をアタシが知った経緯を説明するには、千年前までさかのぼる必要があるわ」
一級神使、虎尾。
しかしてその実態は、平安の世より生きるあやかし、九尾の狐である。
「はじまりは、紫榮さまが亡くなられた後のこと。病が悪化したと風のうわさで聞きつけてアタシが駆けつけたころには、手遅れだった……それだけじゃない。『天鼓丸』のすがたが、どこにもなかったの」
「……やはり」
桐弥は紫水晶の瞳を険しく細める。
紫榮は『天鼓丸』を神社に奉納することを望んでいたものの、取りはからってもらうための猶予がのこされていなかった。
ならばせめて、わが子とはなればなれにならぬように。
紫榮は病床で『天鼓丸』を抱いたまま、最期をむかえた。
だが、ともに土に還ることは叶わなかった。
紫榮がこの世を去った直後、彼のもとから『天鼓丸』を持ち去った者がいるということだ。
「もちろん血まなこになってさがしたわよ。でも、すぐには見つけられなかった。アタシがやっとこの子を見つけたときには、五百年の時が流れていて……雷に撃たれた後だった」
「母さま……」
虎尾はかたわらに寄り添う鼓御前へ視線を落とすと、頭をひとなでした。
時は戦国の世。
虎尾は蘭雪にかわって『天鼓丸』が落雷を受け、損傷した場面に居合わせた。
「数百年の時がたっていることを抜きにしても、蘭雪さまがこの子の失踪に関わっていないことは、ひと目でわかったわ」
蘭雪が紫榮のもとから『天鼓丸』を持ち去った本人でないことはもちろん、その関係者でないことも明白だった。
盗みをはたらく卑しい人間が、焼けてしまった刀をひたむきに案じるはずがないのだ。
そうした蘭雪の姿勢に、虎尾も惹かれるものがあった。
たいせつに後世へつたえていくことを条件に、虎尾は焼けた『天鼓丸』の刀身を磨上げたのち、蘭雪へ託したのだという。
「ふたたび銘を切らなかったのは、嫌な予感がしたからよ」
「嫌な予感、ですか」
虎尾をじっと見つめたまま、千菊が問う。
葵葉、莇も、固唾をのんで虎尾の言葉の続きを待った。
「そう、嫌な予感。『天鼓丸』を求めて、また盗人がやってくるんじゃないかってね。紫榮さまが亡くなってから五百年以上もたってるのに、可笑しな話よね」
「でも」とここで口をつぐんだ虎尾が、しばしの沈黙ののち、絞りだすようにつぶやく。



