御刀さまと花婿たち

(はぁ……)

 ため息をもらした鼓御前は、ぶるりと身じろぎ、熱を逃がす。

(わたしったら、きっと顔が赤いわ……)

 鏡を見ずともわかるほどに、からだが熱い。
 じれったい疼き。けれど不快ではない。

 やがて少年は手際よく茎を柄にもどし、目釘をさす。
 そして白鞘におさめた鼓御前の御神体を緋毛氈へ置いたならば、両手をつき、深々と頭を垂れるのだ。

 なにもかもが、夢見心地だった。
 気だるくも、心地のいい熱。

 衣ずれがあって、少年の視線がつと、横たわったひと振りの刀からはずされる。

「──テンコ」

 静寂にひびく声。
 鼓御前は、にわかに戦慄した。

 いつの間にか、少年が目の前にいる。
 視線が、交わっている。
 そしてその双眸にやどっている色は、おのれとおなじ紫水晶であった。
 そのことに、ようやく気づいた。

「テンコ──天鼓丸(てんこまる)

 くり返す少年の色白な指先が、ふいに伸ばされる。

「まったく……どこの馬の骨に、磨上(すりあ)げられたんだ?」

 少年がなにを言っているのか、わからない。
 わからない、はずなのに。
 細い指先がほほにふれたとき、鼓御前は無性に目頭まで熱くなった。

「在るべきところに、もどってこい」

 鼓膜をくすぐる静かな声に。そっと引き寄せる腕の感触に。
 ひどく懐かしさをおぼえたのは、何故(なにゆえ)だろうか。

 問いの答えは出ないまま、鼓御前は意識の遠のくからだを、少年へとゆだねるのだった。