御刀さまと花婿たち


  *  *  *


『奉納祭』で重傷を負った虎尾が、意識を取りもどした。
 夜どおし付き添っていた鼓御前のことも気にかかるため、葵葉は莇とともに九条家をおとずれたのだが。

「……なんだ、このカオスな状況」

 通された一室で、葵葉は遠い目をした。
 腹を貫かれたはずだが、虎尾は涼しい顔をしている。それはいい。
 不可解なのは、布団から起き上がった虎尾に鼓御前が引っつき、その正面に、冷ややかな笑みを浮かべた千菊が座っているという状況。
 鼓御前はおびえてしまっていて、虎尾が「大丈夫だからね、つづちゃん」としきりに頭をなでていた。
 ちなみに桐弥は、腕組みをして千菊を視線で牽制している。
 今風に言えば「ガンを飛ばしている」だ。

「見なかったことにしたい」
「おや葵葉、莇さん、事後処理ご苦労さまです。こちらへいらっしゃい」
「逃げられんかった」
「はい、失礼いたします!」
「そしてこの状況にかまわず突っ込んでいけるおまえはすげぇよ、莇」

 葵葉は観念し、莇に続いて千菊のとなりへ腰をおろした。

「あなたが何者なのか。九条神使にあらかたの事情はうかがいました。その上で、はっきりさせていただきます」

 どこか張りつめた空気のなか、千菊は虎尾を見据える。

「今度こそ正直にお答えください。私とあなた、以前にお会いしたことがありますね?」

 けっして逃がさない。
 確固たる意志をもった声音だった。

「えぇ、あります」

 虎尾もはぐらかすことはしない。
 そうして、決定的なひと言を放つ。

「蘭雪さま。『天鼓丸』をお持ちだったあなたの前に現れた刀鍛冶は、わたしです」

 それが意味することは、つまり。

「わたしが、『天鼓丸』を磨上(すりあ)げました」

 はっと息をのむ鼓御前。
 またひとつ、『真実』が語られようとしている。

「雷に撃たれ、焼けてしまって……傷ついたこの子を、放っておけなかった」

 焼けた刃を研がれ、『天鼓丸』は太刀から脇差へ生まれ変わったのだ。

「ですがあなたは、磨上げのさいに削った銘を、ふたたび切ろうとはなさいませんでした」

 無銘の脇差。
 だからこそ蘭雪は『鼓御前』とあらたに名づけ、それが後世へ語りつがれることになったのだ。

「敬愛する九条紫榮さまが心血をそそいで打った刀であるならば、なぜ『天鼓丸』の存在を伝えようとなさらなかったのですか」

 千菊の問いに、虎尾が静かにまぶたを閉じる。
 つかの間の沈黙が流れ。

「『墓荒らしの鬼』が、やってくるから」

 息を吐きだすように、虎尾はつぶやく。
 これに、千菊がぴくりと身じろいだ。

「……かつてこころの底から愛し、ともに墓に入れたはずの刀が、何者かに暴かれた。今世に生まれ直し、それを知った私は、ほんとうにはらわたが煮えくり返る思いでした」

 千菊の声音は、ふだんより一段と低い。
 なにより、怒りにふるえていた。

「私は、『真実』が知りたかった。教えてください。『墓荒らしの鬼』とは、何者ですか?」
「ひと振りの刀に執着した、哀れな者の末路。悲しき怨霊」

 すらすらと受け答える虎尾の視線が、ふいに逸らされ。

「アレの正体を突き止める鍵があるとすれば──あなたよ、莇ちゃん」

 唐茶色の瞳が、おどろきに目を見ひらく莇を捉えていた。