御刀さまと花婿たち

「……僕らは、見事に化かされてたってわけだな」

 ひとつ息を吐いた桐弥は、紫水晶の瞳で虎尾を映す。
 虎尾も、唐茶色の瞳で桐弥を見つめ返した。

「わたしはずっと、あなたさまに恩返しがしたいと考えておりました」
「そんなことしなくていい」
「それではわたしの気がすみません」
「恩なら充分に返してもらった。だからこれ以上の貸し借りはなしだ、風汰」

 それは、なんの変哲もない狐に桐弥がつけた名。
 狐にとっては、唯一あたえられた存在意義だった。

「これからは、好きにすればいい」

 たったひと言。
 そっけない言葉のようにも聞こえるが、鼓御前はくすりと笑みがおさえられない。

「ふふ、『ありのままで大丈夫』ということですね」
「……む」
「父さまのおっしゃること、わたしもだんだんわかるようになってきました」

 桐弥は気まずそうに顔をそらす。
 鼓御前はまた笑って、虎尾をふり返った。

「花ちゃんおねぇさま、わたしも考えていたことがあるのです」
「……なんでしょう?」
「わたしを打ったのは紫榮さまですが、相槌を打った狐さんも、わたしの生みの親にちがいはありません」

 そう、刀は独りでは打てないのだ。だから。

「紫榮さまが父さまなら、花ちゃんおねぇさまは、(かか)さまですね」
「なっおい、天!」

 なぜか桐弥が真っ赤な顔でふり返るが、鼓御前は気づかず。

「母さまにお会いできて、つづはうれしゅうございます!」

 はじけんばかりの笑みで抱きつく鼓御前を、虎尾も無意識のうちに抱きとめる。

「あぁ……」

 感嘆をもらした虎尾は、ぎゅっと鼓御前を抱きすくめ。

「わたしの……わたしたちの、かわいい子」

 ほろり。そっと閉じた虎尾の瞳から、ひとしずくがこぼれ落ちた。

「──お取り込み中のところ、失礼いたします」

 どれほど抱きあっていただろうか。
 静かな部屋に、男のおだやかな声がひびく。
 鼓御前が入り口のほうを見やると、竜頭面の男がそこに。

「あるじさま……?」

 千菊に間違いはない。
 だが鼓御前は、なぜか身ぶるいをしてしまった。
 というのも、千菊の周辺が、ひやりと冷えきっているような気がしたから。

「回復されたようで安心いたしました、虎尾先生。それとも──陣さまとお呼びしたほうがよろしいですか」
「どっちでもいいけれど」
「では虎尾先生、単刀直入に申しあげます」

 鼓御前を抱いた虎尾を面越しに一瞥した千菊は、ひと言。

「ごぞんじのことを、洗いざらい白状してもらいましょうか」

 その瞬間、さすがの虎尾もほほが引きつった。

「立花センセ……もしかしなくても、激おこじゃない?」