御刀さまと花婿たち

 波乱の『奉納祭』から、一夜明けた日。
 家の一室で、ひとりの青年が布団に横たえられていた。

「そんな……どうして……」

 虎尾へ覆いかぶさるようにして、鼓御前がはらはらと涙を流す。

「目をさましてください、花ちゃんおねぇさまぁ……!」

 かたわらでは、黙りこくった桐弥が、その光景を見つめていた。
 昨晩からずっとこの様子だ。
 一睡もせずに泣き明かす鼓御前のすがたは、見ていて痛ましい。

「……僕の責任だ。あのとき、僕が反撃できていれば」
「父さまは悪くありません!」

 桐弥は神楽を舞い終えた直後で、酷く消耗した状態だった。
 意識を保っていたこと自体が奇跡だったのだ。
 では、いったいどうすべきだったのか。
 いまさら後悔したところで、手遅れなのだけれど。

「天──」

 なんと声をかけたものか。
 迷いながら口をひらこうとした桐弥は、はたと息を止める。
 力なく投げだされていた虎尾の指先が、ぴくりとわずかに動いた気がして。

「うぅ……花ちゃんおねぇさま……」
「待て、天」

 いや、気のせいではない。
 確信した桐弥は、いまだ嗚咽をもらす鼓御前の腕を引く。
 それと時をおなじくして、伏せられた虎尾のまつげが、ふる、と震えた。

「……んっ……んん~っ! ふわぁ、よく寝たわぁ」
「えっ……」

 鼓御前は呆然とした。
 なにが起きたのか、よくわからなくて。
 けれども、布団からもぞりと起き上がり、あくびをもらしている虎尾のすがたは、本物で。

「まぁ、ふたりともおそろいで。ってあら、アタシすっぴんじゃない? やぁだ~、恥ずかしい~」

 かと思えば、虎尾はなにやらのんきなことを言いながら笑っている。
 そこへ、ゴゴゴ……と不穏な空気を背負った桐弥が詰め寄り。

「寝ぼけたこと言ってる場合か、この馬鹿たれがぁっ!」

 ばちぃんっ! と容赦ない平手打ちが、虎尾の頭を直撃する。

「いったぁ~い! なになに!? 暴力はんたぁ~いっ!」

 すかさず虎尾が涙目で抗議したのは、言わずもがなである。