御刀さまと花婿たち

 夏の空が、黒に染まる。

「外に出てはいけないよ、ふゆ」

 甘味処『はなや』の店先にて。
 戸口に手をかけ、夜空を見上げていたふゆの肩に、青年の手がふれる。

「わかっていますよ、紫陽さま」

 うなずくふゆ。しかしいまだ気遣わしげに、夜空の向こうを見上げる。

「御刀さま方は、大丈夫かしら……」

 先日、〝(ヤスミ)〟が逃げだしたらしい。
 覡たちが昼夜問わず巡回しているため、いまのところ島民は問題なく日常生活を送ることができている。
 ただ、このところふゆは、胸さわぎがしてならなかった。
 そして高い霊力をもつふゆの胸さわぎが、単なる勘にとどまらないことを、紫陽は知っていた。

(なにか、よくないことが起ころうとしている)

 それを理解したとて、桜の精でしかない紫陽にできることはかぎられているのだが。

「ねぇ、紫陽さま」
「うん?」

 淡色の袖を引かれる感覚で、紫陽は思案の底から意識をもどす。
 ふゆが、切実な面持ちでこちらを見上げていた。

「私たちに、なにかできることはないかしら?」
「そうだね……」

 ──みなさんが無事でいてくだされば、わたしはそれでいいのです。

 こころやさしい御刀さまは、そうおっしゃるだろうけれど。

「きっとあるはずだよ」

 命を救ってもらったのだ。
 恩返しがしたい。
 その気持ちは、紫陽だっておなじだった。

「きっと、なにかできることがあるはず。だからふゆ、ぼくたちも」

 あきらめなければ、道はひらけるはず。
 そう信じて、紫陽はふゆのちいさなちいさな手を、ぎゅっとつつみ込んだのだった。