御刀さまと花婿たち


  *  *  *


 覚醒は、突然である。
 淡い陽の光にくすぐられたまぶたを、そっともち上げる。

(……あら、わたし、どうして……ここは?)

 数度まばたきをした鼓御前は、ぼんやりとしたままきょろりとあたりを見わたす。
 たちまち、鮮烈な色彩が目を奪う。
 藺草(いぐさ)の香る六畳間に、鮮やかな緋毛氈(ひもうせん)が敷きつめられており。

(どなたか、いらっしゃる……?)

 たったひとつ、人影を認めた。
 人の言葉であらわすならば、少年だ。

 さらりと清潔感のある、(とび)色の髪。
 白衣の袖は、差袴とおなじ今紫の紐でたすき掛けに。
 緋色の絨毯の上で正座をした少年は、しゃんと背筋をただし、ひと振りの刀と向きあう。

(あぁ、あれは……あの刀は、()()()()()

 目釘(めくぎ)をはずされ、柄からも抜かれた黒い刃。
 あれはまごうことなく、鼓御前自身であった。

(じぶんをながめるなんて、変な感じね)

 くすりと笑った鼓御前は、緋毛氈の端にちょこんと座り、少年の横顔を見つめる。
 和紙をくわえた少年の口は、かたくなに閉ざされ、一切の言葉を発さない。

 とんとん、とんとん。

 少年はむきだしの刀身を、打粉(うちこ)で軽く叩く。
 串に刺さった巨大な月見団子のように見える打粉は、白い布製の団子の中に、砥石(といし)の粉が詰まっている。

 とんとん、とんとん。

 (はばき)もとから、きっさきへ。
 まんべんなく打たれた砥石の粉が、古い油を吸うのだ。
 少年は打粉を置くと、手にとったやわらかい布で浮いた油をぬぐう。

(……んっ……)

 ぞわり。
 肌が粟立つ感覚に、鼓御前は身をこわばらせる。

(くすぐった……あっ……)

 刀身を滑る布との摩擦が、じんわりとした熱をからだの芯からひろげてゆく。
 この感覚を、鼓御前は知っている。
 人の身を得たいまだからこそ、口にできる。

(きもちいい……)

 風呂場で葵葉(あおば)にふれられた感覚と、似ている。
 あますところなく素肌をくすぐられ、按摩(あんま)されるあの感覚と。
 絶えず与えられる快感に、鼓御前は声を押し殺して身悶える。

 粛々と手入れをほどこす少年が、保存のため、丁字油(ちょうじあぶら)を染み込ませた布を滑らせた。
 最後に、唯一素手でふれることのゆるされる(なかご)へ、華奢な指をなでつけて。