御刀さまと花婿たち

 森林にかこまれた島の西部。
 そこに、御刀さまを祀る兎鞠神社がある。

 清純な霊力に満たされた『霊域』は、夏場であっても涼しさを損なわない。
 明け方には、身の冴えるようなひんやりとした空気を感じるほどだ。

「こっちは異常なし、と。そっちはどうだ?」
「問題ない」

 まだ朝陽がのぼって間もないころ。
(ヤスミ)〟の襲撃を受けた日と同様の時間帯に、葵葉と莇は神社をおとずれていた。
 いまだ行方をくらませている〝(ヤスミ)〟の手がかりをさがすためだ。
 だが細心の注意をはらって巡回したものの、これといった異常は見つけられなかった。

「……妙だな」

 神社の入り口には、朱の鳥居がそびえる。
 片ひざをつき、その台石に手をふれあわせていた莇が、眉をひそめる。

「まぁ……こうも異常がないってのが、逆に異常ではあるわな」

 葵葉も怪訝そうに腕組みをし、同意をしめす。

「鳥居をいしずえに張りめぐらされた結界に、異常はない。それなら〝(ヤスミ)〟は、どうやって侵入した……?」

 あやかし自体が活動的ではない明け方に、〝(ヤスミ)〟は難なく神社へ侵入した。
 御刀さまを守るべく幾重にも張りめぐらされた結界を、壊すことなく、だ。

「結界をすり抜けたのか? じゃなきゃ、神社のど真ん中からふってわいたとしか考えられないぞ」

 結界術をあつかうようになったいま、葵葉も事の深刻さを理解していた。
 刀のようなものをもった、人型の〝(ヤスミ)〟……
 人語を発し、武器をあつかうとなれば、すくなからず知能はある。
 やけに人間くさいと千菊がこぼしていたが、まったくそのとおりだ。

「そういえば……聞いたことがある」

 ふと思いだすことがあり、莇はつぶやく。

「『ひとは鬼になることがある』と、義父上がおっしゃっていた」
「どういうことだ?」
「強い憎悪に支配された人間は、死後に怨霊となってひとびとを襲う。それを鬼と呼ぶと」
「落ち武者の怨霊ってやつか? 人型の〝(ヤスミ)〟は、立花センセも見たことがないって言ってたろ」
「立花先生は、な」
「……なんだって?」

 たしかに過去の記録にはない。
 だが鬼灯はそう語っていた。
 尊敬する義父が虚言を吐く人物ではないことは、莇がよく知っていた。

「もしかすれば義父上は、だれも知らない『なにか』をごぞんじだったのではないか」

 そうだと仮定するなら、次に取るべき行動は決まった。

「葵葉、おれは一度鬼塚家にもどる。義父上のおっしゃっていた『鬼』の情報を調べれば、あるいは……」

 葵葉に呼びかけながら、足早に駆けだそうとしたときだった。

「……うっ!」

 ──ズキン。
 唐突な息苦しさに襲われ、莇はうめき声をあげた。