御刀さまと花婿たち

 ──何故(なにゆえ)
 寥々(りょうりょう)とひろがる漆黒の闇をあおいだ鼓御前(つづみごぜん)は、とうてい理解できなかった。

「ここはどこ? これは何なのですか!」

 なにも見えない。なにもつかめない。
 ただただ、天地もわからぬどす黒い虚無空間で、鼓御前はもがいていた。

 ズブズブ……

 からだが沈む。
 まるで、沼に足をとられたかのよう。

「いやぁ……!」

 もがく、もがく。
 伸ばした手は、やはりなにもつかめない。
 もがくほどに、飲み込まれる。

 シュウウ……

 さらに酸性の沼気(しょうき)が立ちこめ、容赦なく鼻を刺す。
 そのせいで呼吸もままならない。

(うっ……なんてにおい……)

 ズブリ、ズブリ……

 黒い沼は、鼓御前の足を、腿を、腰を、胸を飲み込み、首もとまで迫っていた。
 (いびつ)に口をあけた沼が華奢な少女のからだを咀嚼(そしゃく)し、飲み込まんとする。 
 その蠢きは、消化液を分泌して蠕動(ぜんどう)する巨大な胃のごとく。

(もう、だめ……)

 もがく気力も尽き、手足が脱力した刹那。

 ピチョン──

 朝露がしたたり落ちたかのような、ふいの水音。

「え……?」

 おぞましい闇を揺らしたそのひとしずくが、波紋をひろげるように漆黒を吹き飛ばす。
 一瞬にして、真白い光につつまれ。
 あまりのまばゆさに、鼓御前はきつくまぶたをつむるほかなかった。