──兎鞠神社に〝慰〟が出現した。
衝撃的な一報により、九条家の屋敷内は騒然としていた。
これを受け、急遽母屋の一画に救護室が設置される。
「失礼いたします! ご無事ですか、姉上!」
莇が障子を開け放つと、真っ先に萌黄色の和服すがたの少女が目に入る。
莇の姉である、ひなだ。
莇に続き、鼓御前もひなへ駆け寄った。
「お怪我をされたとお聞きしました。ひなさん、大丈夫ですか?」
「はい、陣さまに治療をしていただきましたので……」
畳に座り込んだひなのそばには、陣がいた。
ひなは右の手首あたりを負傷したのだろう。
陣によって包帯が巻かれ、ちょうど処置を終えたところらしかった。
「軽傷ではありますが、しばらく無理はなさらないほうがよろしいでしょう」
「お手数をおかけしました……陣さま」
申し訳なさそうに深々と頭を垂れるひなへ、陣は静かに「いいえ」と答える。
「たいへんなときに悪いけど、なにがあったんだ? 場合によっちゃ、俺らもここで悠長にしてらんないんだけど」
葵葉の問いに、ひなが表情を強ばらせたときだ。
「それに関しましては、わたくしがご報告いたします」
低い声がひびき、打刀を提げた男が部屋に入ってくる。
見慣れぬ顔に鼓御前や葵葉が目を丸くする一方で、莇が反応を見せた。
「山吹殿」
「莇さん、こちらの方は?」
「鬼塚家に仕える覡で、義父上の代から活躍なさっている方です」
「二級神使、山吹と申します。御刀さまにおかれましては、なにとぞお見知りおきを」
山吹は鼓御前へ一礼。
そしてひと呼吸を置き、報告をはじめる。
「今朝方、兎鞠神社にて瘴気反応を確認。付近を巡回しておりましたわたくしも急行いたしました。しかし、当該の〝慰〟はすがたを確認できず」
「つまり、〝慰〟は逃げたってことか?」
「は。追跡が必要な状況下ではございましたが、複数名の負傷者があり、救護を優先すべきと判断いたしました。そのため、姫さま方をこちらへお連れしたしだいでございます」
「九条家には優秀な結界師がいらっしゃいます。〝慰〟も、そうやすやすと侵入はできないでしょう。ご英断に感謝いたします、山吹殿」
「もったいなきお言葉です、若さま」
ひととおりの報告を終えるや否や、「では、わたくしはこれにて」と山吹は足早に部屋を出ていった。
〝慰〟の捜索に向かったのだろう。
「ひなさん、大丈夫ですか?」
終始うつむいていたひなへ、鼓御前が気遣わしげな視線を向ける。
「目の前で、何人もの覡さまが倒れられました。神宮寺家の娘たるもの、毅然とせねばならなかったのに……申し訳ありません」
ひなの言動には、やはり覇気がなかった。
「危険な目に遭ったんです。恐怖を感じるのは当然ですわ」
「鼓御前さま……」
「よくぞ無事でいてくれました。もう大丈夫ですからね、ひなさん」
「……はい……っ!」
緊張の糸が切れたのだろう。
ひなの瞳から、ぶわりと涙があふれだす。
安堵の涙を流すひなを、鼓御前は抱きしめた。
「姉上……」
莇もこみ上げるものをぐっとこらえ、すすり泣く姉の肩に、そっと手を添えるのだった。
衝撃的な一報により、九条家の屋敷内は騒然としていた。
これを受け、急遽母屋の一画に救護室が設置される。
「失礼いたします! ご無事ですか、姉上!」
莇が障子を開け放つと、真っ先に萌黄色の和服すがたの少女が目に入る。
莇の姉である、ひなだ。
莇に続き、鼓御前もひなへ駆け寄った。
「お怪我をされたとお聞きしました。ひなさん、大丈夫ですか?」
「はい、陣さまに治療をしていただきましたので……」
畳に座り込んだひなのそばには、陣がいた。
ひなは右の手首あたりを負傷したのだろう。
陣によって包帯が巻かれ、ちょうど処置を終えたところらしかった。
「軽傷ではありますが、しばらく無理はなさらないほうがよろしいでしょう」
「お手数をおかけしました……陣さま」
申し訳なさそうに深々と頭を垂れるひなへ、陣は静かに「いいえ」と答える。
「たいへんなときに悪いけど、なにがあったんだ? 場合によっちゃ、俺らもここで悠長にしてらんないんだけど」
葵葉の問いに、ひなが表情を強ばらせたときだ。
「それに関しましては、わたくしがご報告いたします」
低い声がひびき、打刀を提げた男が部屋に入ってくる。
見慣れぬ顔に鼓御前や葵葉が目を丸くする一方で、莇が反応を見せた。
「山吹殿」
「莇さん、こちらの方は?」
「鬼塚家に仕える覡で、義父上の代から活躍なさっている方です」
「二級神使、山吹と申します。御刀さまにおかれましては、なにとぞお見知りおきを」
山吹は鼓御前へ一礼。
そしてひと呼吸を置き、報告をはじめる。
「今朝方、兎鞠神社にて瘴気反応を確認。付近を巡回しておりましたわたくしも急行いたしました。しかし、当該の〝慰〟はすがたを確認できず」
「つまり、〝慰〟は逃げたってことか?」
「は。追跡が必要な状況下ではございましたが、複数名の負傷者があり、救護を優先すべきと判断いたしました。そのため、姫さま方をこちらへお連れしたしだいでございます」
「九条家には優秀な結界師がいらっしゃいます。〝慰〟も、そうやすやすと侵入はできないでしょう。ご英断に感謝いたします、山吹殿」
「もったいなきお言葉です、若さま」
ひととおりの報告を終えるや否や、「では、わたくしはこれにて」と山吹は足早に部屋を出ていった。
〝慰〟の捜索に向かったのだろう。
「ひなさん、大丈夫ですか?」
終始うつむいていたひなへ、鼓御前が気遣わしげな視線を向ける。
「目の前で、何人もの覡さまが倒れられました。神宮寺家の娘たるもの、毅然とせねばならなかったのに……申し訳ありません」
ひなの言動には、やはり覇気がなかった。
「危険な目に遭ったんです。恐怖を感じるのは当然ですわ」
「鼓御前さま……」
「よくぞ無事でいてくれました。もう大丈夫ですからね、ひなさん」
「……はい……っ!」
緊張の糸が切れたのだろう。
ひなの瞳から、ぶわりと涙があふれだす。
安堵の涙を流すひなを、鼓御前は抱きしめた。
「姉上……」
莇もこみ上げるものをぐっとこらえ、すすり泣く姉の肩に、そっと手を添えるのだった。



