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「じつは今朝……父さまと喧嘩をしてしまいまして」
射場からの帰り道。
部屋へともどる道中に、鼓御前は事のいきさつを葵葉と莇へ話した。
「もしかして、泣いておられたのは、それが原因で……?」
「えぇ……体調がすぐれないのに神楽のお稽古をなさろうとするので、止めたのです。でも父さまは聞いてくださらなくて」
「聞く耳も持たず無茶するところは、どこかのだれかさんみたいだな」
「うっ……!」
葵葉の皮肉が、容赦なく莇に突き刺さる。
縮こまる思いではあるものの、莇は「こほん」と咳ばらいをひとつ。
「鼓御前さまは、九条先輩と仲直りをなさりたいのですよね?」
「はい。でもなんといえば気持ちがつたわるのか、わからないんです……」
「なるほど。でしたらおれが九条先輩に直談判を」
「待て待て待て。なんでそうなる」
間髪をいれず歩みだそうとする莇の肩を、葵葉がつかんで引きとめる。
しかしふり返った莇の面持ちは、至極真面目なものであった。
「鼓御前さまが悲しんでおられる。まず九条先輩に、そのことをご理解いただかないといけない」
「だからって、おまえが殴り込みに行ったところで返り討ちにあうだけだろ」
「鼓御前さまのためだ、かまうものか」
「かまえよ、この脳筋!」
莇は本気だ。
良くも悪くも一本気な性分ゆえに、時おり突拍子もない行動に出てしまう。
そのため葵葉も手を焼いていた。
「あぁあもうっ! けどまぁ、九条センパイの態度がどうなんだってのは俺も同感! あのひと、言葉がすくなすぎるんだよな」
「言葉が、すくなすぎる……」
「会話が下手くそってこと。ほんとはもっといろいろ考えてるのに、それを姉さまにうまくつたえられてないんじゃねぇの?」
葵葉の見解を聞いて、鼓御前ははっとする。
(そういえばわたし、じぶんの気持ちをぶつけたり、責め立てるようなことを言うばかりで、父さまのお気持ちに寄り添っていなかったわ……)
桐弥がなにを考え、なにを成そうとしているのか。
いま一度冷静になって向き合えば、なにかが変わるだろうか。
(いいえ、変えなければ)
秘められた真意を解きほぐすために、桐弥と向き合わなければ。
「葵葉、莇さん。わたし、父さまともう一度お話をしてみます。今度こそ父さまのおこころに耳をかたむけたいのです」
つい先ほどまで口論をしていた少年たちは、顔を見合わせ。
「ふぅん、いいんじゃない?」
「はい、行ってらっしゃいませ」
思い思いの笑みを、鼓御前へ返す。
「ありがとうございます! 行ってきます!」
葵葉、そして莇の後押しを受け、鼓御前は足取りも軽くきびすを返す。
「──御刀さま、鼓御前さまはいらっしゃいますか!」
そのときだ。
あてがわれた部屋の目前で、あわただしい足音を耳にしたのは。
鼓御前は呼び声のほうへ視線を向ける。
すると縁側の向こうから、黒の紋付袴をまとった人物が駆け寄るところであった。
「こちらにおいででしたか、鼓御前さま」
「竜胆さま……? どうなされました?」
明らかに、竜胆の様子が尋常ではない。
なにかただならぬことが起こったのだ。
「莇殿もご一緒でしたか。どうか落ち着いてお聞きくだされ」
緊張した面持ちの竜胆は、鼓御前のとなりにたたずむ莇を一瞥。
そして衝撃的な言葉を放つ。
「先刻、急ぎのしらせが。〝慰〟が出現したとのこと。場所は兎鞠神社」
その瞬間、その場にいただれもが戦慄した。
兎鞠神社。
そこには──ひながいる。



