御刀さまと花婿たち


  *  *  *


「じつは今朝……父さまと喧嘩をしてしまいまして」

 射場からの帰り道。
 部屋へともどる道中に、鼓御前は事のいきさつを葵葉と莇へ話した。

「もしかして、泣いておられたのは、それが原因で……?」
「えぇ……体調がすぐれないのに神楽のお稽古をなさろうとするので、止めたのです。でも父さまは聞いてくださらなくて」
「聞く耳も持たず無茶するところは、どこかのだれかさんみたいだな」
「うっ……!」

 葵葉の皮肉が、容赦なく莇に突き刺さる。
 縮こまる思いではあるものの、莇は「こほん」と咳ばらいをひとつ。

「鼓御前さまは、九条先輩と仲直りをなさりたいのですよね?」
「はい。でもなんといえば気持ちがつたわるのか、わからないんです……」
「なるほど。でしたらおれが九条先輩に直談判を」
「待て待て待て。なんでそうなる」

 間髪をいれず歩みだそうとする莇の肩を、葵葉がつかんで引きとめる。
 しかしふり返った莇の面持ちは、至極真面目なものであった。

「鼓御前さまが悲しんでおられる。まず九条先輩に、そのことをご理解いただかないといけない」
「だからって、おまえが殴り込みに行ったところで返り討ちにあうだけだろ」
「鼓御前さまのためだ、かまうものか」
「かまえよ、この脳筋!」

 莇は本気だ。
 良くも悪くも一本気な性分ゆえに、時おり突拍子もない行動に出てしまう。
 そのため葵葉も手を焼いていた。

「あぁあもうっ! けどまぁ、九条センパイの態度がどうなんだってのは俺も同感! あのひと、言葉がすくなすぎるんだよな」
「言葉が、すくなすぎる……」
「会話が下手くそってこと。ほんとはもっといろいろ考えてるのに、それを姉さまにうまくつたえられてないんじゃねぇの?」

 葵葉の見解を聞いて、鼓御前ははっとする。

(そういえばわたし、じぶんの気持ちをぶつけたり、責め立てるようなことを言うばかりで、父さまのお気持ちに寄り添っていなかったわ……)

 桐弥がなにを考え、なにを成そうとしているのか。
 いま一度冷静になって向き合えば、なにかが変わるだろうか。

(いいえ、変えなければ)

 秘められた真意を解きほぐすために、桐弥と向き合わなければ。

「葵葉、莇さん。わたし、父さまともう一度お話をしてみます。今度こそ父さまのおこころに耳をかたむけたいのです」

 つい先ほどまで口論をしていた少年たちは、顔を見合わせ。

「ふぅん、いいんじゃない?」
「はい、行ってらっしゃいませ」

 思い思いの笑みを、鼓御前へ返す。

「ありがとうございます! 行ってきます!」

 葵葉、そして莇の後押しを受け、鼓御前は足取りも軽くきびすを返す。

「──御刀さま、鼓御前さまはいらっしゃいますか!」

 そのときだ。
 あてがわれた部屋の目前で、あわただしい足音を耳にしたのは。
 鼓御前は呼び声のほうへ視線を向ける。
 すると縁側の向こうから、黒の紋付袴をまとった人物が駆け寄るところであった。

「こちらにおいででしたか、鼓御前さま」
「竜胆さま……? どうなされました?」

 明らかに、竜胆の様子が尋常ではない。
 なにかただならぬことが起こったのだ。

「莇殿もご一緒でしたか。どうか落ち着いてお聞きくだされ」

 緊張した面持ちの竜胆は、鼓御前のとなりにたたずむ莇を一瞥。
 そして衝撃的な言葉を放つ。

「先刻、急ぎのしらせが。〝(ヤスミ)〟が出現したとのこと。場所は兎鞠神社」

 その瞬間、その場にいただれもが戦慄した。
 兎鞠神社。
 そこには──ひながいる。