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「……鼓御前さま。おれからもひとつ、おつたえしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか」
しばしの沈黙をはさみ、莇が切りだす。
「なんでしょう?」
鼓御前が返すと、莇は背をただした。
「尊敬する義父を亡くし、喪失感と使命感にさいなまれながら生きてきたことは事実です。ですがおれの人生は、失うばかりのものではありませんでした。鼓御前さまがいらっしゃいましたから」
「わたし、ですか?」
「はい。以前、おれは鼓御前さまとお会いしたことがあるのです。義父上が神楽を舞われる前日、鼓御前さまの御神体を特別に拝見させていただきました」
鬼灯が神楽の舞い手をつとめたのは、八年前。
莇は当時八歳の幼子だったろう。
「あの日のことは、鮮明に覚えています。夜空のような漆黒の刃に、きらめく稲妻……おれは一瞬で目を奪われました」
自身の胸に手を当てた莇は、ありし日に思いをはせる。
そのほほは、ほのかに赤らんでいて。
「このお美しい御刀さまの覡になりたい。義父上のような立派な覡になって、御刀さまとともにみなを守りたい。そう強く思うようになりました」
ですから、と、莇はまっすぐなまなざしで、鼓御前を映しだす。
「鼓御前さまがいてくださったからこそ、おれは、ここまで歩んでこられたのです。その道すじは無駄ではなかった。たとえお付きの覡になれなくても、悲観はしません」
「莇さん……」
「この先なにがあろうと、くじけることはない。おれはおれのなすべきことをまっとうすると、鼓御前さまに誓います」
莇の言葉が、まっすぐな想いが、鼓御前の胸をふるわせる。
「はい。この鼓御前が、しかと聞き届けました。いっしょにがんばりましょうね。葵葉も力を貸してくれるはずです」
「俺も『奉納祭』までに〝慰〟の掃除に駆りだされることになったしな。ヨロシク」
にやり。いたずらっぽい笑みを浮かべてみせる葵葉。
莇はふ……と瞳を細め、
「それはたのもしいことだ」
と返したのだった。



