「ところで……鼓御前さま」
わずかにひそめた声で呼ばれる。
見れば莇が、様子をうかがうようにこちらを見つめていた。
「おれの思い違いであればたいへん恐縮なのですが、なにかございましたか?」
「えっと、どうしてでしょう?」
「目もとが腫れています」
「あっ……」
そこでようやく、鼓御前はおのれの現状を思いだした。
桐弥と口論をして、あれだけ盛大に泣きわめいたのだ。
「なんでもない」は通用しないだろう。
「……怖い夢を見てしまって」
泣きはらした顔で、鼓御前は苦笑する。
嘘は言っていないはずだ。
「それは心細かったことでしょう」
「っ……」
嘘はついていない。
けれど多くも語らない鼓御前に莇がかけた言葉は、飾らないもので。
そうだ。怖くて心細かったのだ。
そんな鼓御前に、莇は寄り添おうとしてくれる。
彼の心根は、どこまでもまっすぐで、やさしい。
「おれでよろしければ、お話し相手になります。あまり気の利いたことは言えませんが……すこしは不安もまぎれるかと」
「……ありがとうございます」
目頭が熱くなるのを感じたが、不快ではない。
鼓御前は莇にはにかんでみせた。
「えぇと……莇さんはどうしてこちらに? まだ朝早いですけれど」
「はい、日課をこなそうかと思いまして」
「日課、といいますと」
「朝の鍛錬です。覡たるもの、研鑽をかさねなければなりませんから」
向上心の高い莇らしい返答だ。
しかしながら、莇はこれから剣術の鍛錬に向かうわけではないようだ。
なぜならその背に、ひと張りの弓を背負っているから。
「弓……ですか?」
意外そうな鼓御前の視線を受けて、莇は「これはですね」と説明を続ける。
「九条家にはすばらしい射場がありますので、使わせていただけないかお願いしたんです」
覡の武器といえば、刀が一般的だ。
しかし覡の霊力をまとわせさえすれば、どんな武器でも〝慰〟を祓うことは可能だ。
莇は立花家に次ぐ退魔師の名門、鬼塚家で日々実力を磨いている。
戦闘に特化した覡であるならば、さまざまな武器のあつかいに長けていてもなんら不思議はない。
「それでしたら、莇さんが弓の鍛錬をなさっているところを、見学させていただいてもよろしいですか?」
「お見せするほどの腕前ではありませんが……」
「おじゃまはいたしませんわ。ですから、ね?」
気恥ずかしそうにしていた莇も、鼓御前の上目遣いを受け、ぐっと口をつぐむ。
そして腹を決めたように、うなずいたのだった。
「かしこまりました。それでは、まいりましょう」
わずかにひそめた声で呼ばれる。
見れば莇が、様子をうかがうようにこちらを見つめていた。
「おれの思い違いであればたいへん恐縮なのですが、なにかございましたか?」
「えっと、どうしてでしょう?」
「目もとが腫れています」
「あっ……」
そこでようやく、鼓御前はおのれの現状を思いだした。
桐弥と口論をして、あれだけ盛大に泣きわめいたのだ。
「なんでもない」は通用しないだろう。
「……怖い夢を見てしまって」
泣きはらした顔で、鼓御前は苦笑する。
嘘は言っていないはずだ。
「それは心細かったことでしょう」
「っ……」
嘘はついていない。
けれど多くも語らない鼓御前に莇がかけた言葉は、飾らないもので。
そうだ。怖くて心細かったのだ。
そんな鼓御前に、莇は寄り添おうとしてくれる。
彼の心根は、どこまでもまっすぐで、やさしい。
「おれでよろしければ、お話し相手になります。あまり気の利いたことは言えませんが……すこしは不安もまぎれるかと」
「……ありがとうございます」
目頭が熱くなるのを感じたが、不快ではない。
鼓御前は莇にはにかんでみせた。
「えぇと……莇さんはどうしてこちらに? まだ朝早いですけれど」
「はい、日課をこなそうかと思いまして」
「日課、といいますと」
「朝の鍛錬です。覡たるもの、研鑽をかさねなければなりませんから」
向上心の高い莇らしい返答だ。
しかしながら、莇はこれから剣術の鍛錬に向かうわけではないようだ。
なぜならその背に、ひと張りの弓を背負っているから。
「弓……ですか?」
意外そうな鼓御前の視線を受けて、莇は「これはですね」と説明を続ける。
「九条家にはすばらしい射場がありますので、使わせていただけないかお願いしたんです」
覡の武器といえば、刀が一般的だ。
しかし覡の霊力をまとわせさえすれば、どんな武器でも〝慰〟を祓うことは可能だ。
莇は立花家に次ぐ退魔師の名門、鬼塚家で日々実力を磨いている。
戦闘に特化した覡であるならば、さまざまな武器のあつかいに長けていてもなんら不思議はない。
「それでしたら、莇さんが弓の鍛錬をなさっているところを、見学させていただいてもよろしいですか?」
「お見せするほどの腕前ではありませんが……」
「おじゃまはいたしませんわ。ですから、ね?」
気恥ずかしそうにしていた莇も、鼓御前の上目遣いを受け、ぐっと口をつぐむ。
そして腹を決めたように、うなずいたのだった。
「かしこまりました。それでは、まいりましょう」



