御刀さまと花婿たち

(……ううん、それだけじゃないわ)

 いまこの身にやどっているのは、単なる尊敬の念だけではない。

 ──やっぱり、難しいですよね。

 ふいに、ひなの言葉が脳裏をよぎる。

 ──恋って、そういうものなんです。

(……恋)

 ……そうか。

「あるじさま……わたしは」

 だからなのか。

「わたしも、あるじさまといっしょにいたい……離れたくないです」

 ようやく、わかった。

「だってわたしも、あるじさまのことが……好きだからっ!」

 そばにいることが、しあわせで、ときに切なくて。
 けれど、想わずにはいられない。
 それが、だれかを恋しく想うこころ。
 ──恋をするということ。

「ごめんなさい、あるじさま……わたし、なんにもわかっていなくて……」

 おのれがどれほど無知だったのか、鼓御前は思い知る。
 それゆえ、どれほどの過ちをおかしてきたのかも。

「あるじさまのお気持ちも知らずに、奥方さまを娶ってほしいだなんて、ひどいことを言いました……ごめんなさい……!」

 見放されても当然のことだった。
 それなのに、千菊は鼓御前を見限ろうとはしなかった。
 いつだって、その想いを一心に向けてくれていた。

「謝らないで、つづ」
「……怒ら、ないのですか?」
「怒るものですか」

 千菊の腕がほどかれ、ふたたび背にまわる。
 今度は、つつみ込むように、やさしく。

「きみにそう言ってもらえたことが、私にとって一番の幸福です。……あぁ、つづ。夢ではないんですね」
「はい……あるじさま」

 夢であってたまるものか。
 だれかを恋しく想う感情──それを、ようやく知ることができたのだ。
 夢物語で、終わらせたくない。

「つづは、立花千菊さまをお慕いしております……っ!」

 鼓御前は両腕をひろげ、千菊の首にまわす。

「おいで。かわいい私のつづ」

 おだやかな声が、しなやかな腕が、鼓御前のすべてをつつみ込む。
 ひとはうれしくても涙があふれるのだと、またひとつ、鼓御前は知った。