御刀さまと花婿たち

「鼓御前」

 かたちのいいくちびるがそっと寄せられ、鼓御前の桃色のそれを、やわく()んだ。

「ふぁっ……」

 口づけをされた拍子にうすくひらいたすきまから、ふっ……と呼気を吹き込まれる。
 とたん全身を満たすものを感じた鼓御前は、くたりと四肢を弛緩(しかん)させた。
 脱力した少女の華奢なからだを、竜頭面の男はしかと抱き直す。

「〝(ヤスミ)〟を祓ったとき、御刀さまは神気を消費するだけでなく、穢れを受けます」

 おもむろにつむがれた言葉によって、呆けていた葵葉の意識が引きもどされる。
 素顔をかくした竜頭面の男。
 身にまとうものは、上衣も差袴も、すべてが純白。
 常磐色の瞳をキッと細めた葵葉は、目前で純白の衣をなびかせている男を睨みつけた。

「……姉さまを、離せ」
「応急処置をほどこしましたが、きちんとした『御手入(おてい)れ』が必要です」
「離せと言っている!」
兎鞠(とまり)神社におもどりを。『典薬寮(てんやくりょう)』より専門の者を遣わせます。こちらにも、じきに事後処理班が到着いたしますので」

 いくら声を荒らげようとも、竜頭面の若者は落ち着きをくずさない。
 葵葉はくちびるを噛む。
 ふだんならさらに食い下がり、吠えているところだろう。
 しかしそれができない。
 なぜなら。

「お利口なきみなら、私の言うことをきけますね? ()()

 反論は、できなかった。
 葵葉は青年と面識がない。
 だが、()()()()()
 この魂が、()()()()()()

「なんで……なんであんたがここにいるんだよ、あるじ!」

 答えはない。
 独り取り残された静けさに、悲痛な声がひびくばかりで。
 爪が食い込むほどこぶしをにぎりしめた葵葉は、ややあって、乱雑に浴衣の裾をひるがえした。