御刀さまと花婿たち


  *  *  *


 聞くところによると、葵葉は千菊の付き添いで九条家をおとずれたらしい。
 母屋に用意された十二畳の客間は、鼓御前が九条家にいるあいだ使うものだ。
 ここならば余人の目もないとのことで、おたがいに腰を落ち着けて現状を説明することができた。

「──はぁ。事情はなんとなくわかった。九条センパイの世話をするために、こんな面倒なことやってるわけか」

 座布団に座った葵葉が、ひと息つく。
 しかしその表情はどこか釈然としていない。
 しばし腕組みをして考えたのち、葵葉は陣を見やった。

「見た目はともかく、近くにいたら霊力の気配でばれるんじゃないか? 俺にだってわかるくらいだぞ。あの九条センパイなら、とっくに気づいててもおかしくないと思うけど」
「そうですね。そうかもしれません」

 部屋の入り口にひかえた陣が答える。
 なんともあっさりとした返事だ。
 これには鼓御前も目を丸くする。

「父さまがお気づきかもしれないと、おわかりになった上で……?」
「ならなんで、いちいちこんなこと」
「必要なことだからです」

 鼓御前や葵葉の疑問へ、陣は言葉をかさねる。

「わたしがあの方にお仕えするために、必要なことだからです」

 陣の発言は核心にふれない。これ以上語るつもりはないのだろう。

「ふぅん。あんたは九条センパイが気づいてるのを知ってて、九条センパイもあんたになにも言わない、か。難儀だなぁ、あんたらも」

 多くは語れない事情を葵葉も察したのか。
 これ以上陣の話を掘り下げることはしない。

(花ちゃんおねぇさまは、事情があって陣さまのふりをされているようだけれど……)

 だれに対しても物怖じすることなく、社交的な虎尾。
 口下手で、人付き合いが苦手な陣。

 絵に描いたように正反対な兄弟だ。
 顔のつくりは瓜ふたつ。けれど別人。

(だけど……でも)

 今日『彼』を目にしてから、鼓御前は胸に『感じる』ものがあった。

(どうしてでしょう……どちらも、『彼らしい』と思えてしまう)

 問答無用で桐弥を布団に放り込む虎尾も。
 何歩も後ろに下がり、必要以上に桐弥へ干渉はしない陣も。
 別人だと主張しながら、そのふるまいで、桐弥に対する『思いやり』を隠せていない。
 彼は『ふたり』でもあり、『ひとり』でもあった。

(ふふ、よくわからなくなってきたわ)

 不思議なものだ。
 学校ではわからないことがあったらモヤモヤして、解決しないとスッキリしない。
 それなのに、桐弥を巡る『虎尾と陣』の問題を前にして、鼓御前はまったくもって不快感をおぼえなかった。
 まるで、晴れているのに雨がふり、その末に虹をかいま見たかのような心地で。

「なんだか、狐に化かされているみたい」

 ほぼ無意識のうちに口にしていた。
 が、鼓御前がそうつぶやいたとたん、はっと息をのむ気配がある。
 やけに視線を感じる。陣が唐茶色の瞳を見ひらき、こちらを凝視していた。

「どうかなさいましたか?」
「…………いえ」

 鼓御前がきょとんと首をかしげると、陣はかぶりをふって息をつく。
 まるで、安堵したかのように。

「それでは、このあとのご予定ですが」

 陣は居住まいをただすと、鼓御前へ向かって頭を垂れる。

「本日は顔合わせとのことで、御三家のみなさまをおまねきしてのご夕食となります。のちほどうかがいますので、お時間までごゆるりとお過ごしを──」
「あの! それでしたら、わたしからおねがいがありまして!」

 このままいくと、陣は退室してしまうだろう。
 そう悟った鼓御前は、すかさず陣を呼びとめる。

「わたしに、お屋敷を案内していただけませんか?」

 広い敷地内だ。
 必要に応じてじぶんが案内するため迷子になる心配はないと、陣に言われていたが。

「お部屋でぼうっとしているよりいいかと思いまして。九条家のみなさんに、ごあいさつもしたいですし!」
「鼓御前さま……」

 力説をしたところ、陣は唐茶色の瞳でじっと鼓御前を見つめ──

「かしこまりました。では、ご案内いたします」

 ふわり。笑みをほころばせ、うなずいたのだった。