「莇さん。わたしもおてつだいしますから、遠慮なくおっしゃってくださいね?」
頼ってほしい。
鼓御前はそうつたえたつもりだった。
だが、莇は静かにかぶりをふる。
「いいえ。鼓御前さまはたいせつな神事をひかえておられます。お手をわずらわせることはいたしません」
「莇さん……」
莇の意思は揺るがなかった。かたくなになっているともいえる。
そんななか、おもむろに口をひらいた千菊の提案がながれを変える。
「北は鬼塚家、東は立花家の管轄地です。〝慰〟が顕著に増加している北東部は、その境目にあたります。であれば、両家が協力して警備をおこなうべきかと」
よって、立花家も警戒にあたる覡を増員する。その旨が、千菊の口から告げられた。
「急いては事を仕損じます。こんなときだからこそ、焦らず冷静に対処していきましょう」
「……力およばず、申し訳ございません」
「言ったでしょう? 気負う必要はまったくありませんと。これからみなさんと協力していけばいいんですから。ね、莇さん」
「はい……立花先生」
おだやかに呼びかけられ、莇も幾分か緊張がやわらいだようだ。
(さすがあるじさまです。それにくらべ、わたしは……)
莇の負担を取りのぞくことも、軽くすることもできなかった。
(わたしだって、みなさんのお力になりたいのに)
守られるだけの御刀さまでは、いたくない。
それをつたえたくても、どうもうまくいかない。
胸にふっ……と影がさすのを、鼓御前は感じた。
その様子を、桐弥が紫水晶のまなざしで見つめていた。
「話はまとまったようだな。本題に入らせてもらう」
桐弥はあまり多弁ではない。
一方で、ひとたび口をひらけば不思議と引き寄せられるひびきがある。
だれもが、桐弥に注目した。
「みなわかっていると思うが、『奉納祭』を間近にひかえている」
桐弥の言葉に、鼓御前ははっと背すじを正した。
そうだ。ここは『奉納祭』に先立ち、御刀さまと御三家の代表があつまる場。
これはみなの顔合わせなのだ。
「本年はわが九条家が主宰でございます。そして、倅も十八の年をむかえました」
千菊、莇を見やった竜胆が、最後に鼓御前へ向き直る。
「本日みなさまにおあつまりいただいたのは、ほかでもございません。『奉納祭』にておこなわれる神楽の成功──これをもちまして九条桐弥が九条家当主と相成りますことを、ここに宣言いたします」
──桐弥が、九条家の当主に。
それほど此度の『奉納祭』は九条家にとって大きな転機であるのだと、鼓御前は思い知る。
「『奉納祭』の神楽は、神刀を使うのがならわしだときいています。わたしは、どのようなことをすればよろしいのでしょう?」
鼓御前は素朴な疑問を口にしたつもりだった。だが──
「特別なことはなにも。こちらがぬかりなくやる。僕に万事まかせておけ」
返ってきた桐弥の言葉は、やはり簡潔で、淡々としたものであった。
頼ってほしい。
鼓御前はそうつたえたつもりだった。
だが、莇は静かにかぶりをふる。
「いいえ。鼓御前さまはたいせつな神事をひかえておられます。お手をわずらわせることはいたしません」
「莇さん……」
莇の意思は揺るがなかった。かたくなになっているともいえる。
そんななか、おもむろに口をひらいた千菊の提案がながれを変える。
「北は鬼塚家、東は立花家の管轄地です。〝慰〟が顕著に増加している北東部は、その境目にあたります。であれば、両家が協力して警備をおこなうべきかと」
よって、立花家も警戒にあたる覡を増員する。その旨が、千菊の口から告げられた。
「急いては事を仕損じます。こんなときだからこそ、焦らず冷静に対処していきましょう」
「……力およばず、申し訳ございません」
「言ったでしょう? 気負う必要はまったくありませんと。これからみなさんと協力していけばいいんですから。ね、莇さん」
「はい……立花先生」
おだやかに呼びかけられ、莇も幾分か緊張がやわらいだようだ。
(さすがあるじさまです。それにくらべ、わたしは……)
莇の負担を取りのぞくことも、軽くすることもできなかった。
(わたしだって、みなさんのお力になりたいのに)
守られるだけの御刀さまでは、いたくない。
それをつたえたくても、どうもうまくいかない。
胸にふっ……と影がさすのを、鼓御前は感じた。
その様子を、桐弥が紫水晶のまなざしで見つめていた。
「話はまとまったようだな。本題に入らせてもらう」
桐弥はあまり多弁ではない。
一方で、ひとたび口をひらけば不思議と引き寄せられるひびきがある。
だれもが、桐弥に注目した。
「みなわかっていると思うが、『奉納祭』を間近にひかえている」
桐弥の言葉に、鼓御前ははっと背すじを正した。
そうだ。ここは『奉納祭』に先立ち、御刀さまと御三家の代表があつまる場。
これはみなの顔合わせなのだ。
「本年はわが九条家が主宰でございます。そして、倅も十八の年をむかえました」
千菊、莇を見やった竜胆が、最後に鼓御前へ向き直る。
「本日みなさまにおあつまりいただいたのは、ほかでもございません。『奉納祭』にておこなわれる神楽の成功──これをもちまして九条桐弥が九条家当主と相成りますことを、ここに宣言いたします」
──桐弥が、九条家の当主に。
それほど此度の『奉納祭』は九条家にとって大きな転機であるのだと、鼓御前は思い知る。
「『奉納祭』の神楽は、神刀を使うのがならわしだときいています。わたしは、どのようなことをすればよろしいのでしょう?」
鼓御前は素朴な疑問を口にしたつもりだった。だが──
「特別なことはなにも。こちらがぬかりなくやる。僕に万事まかせておけ」
返ってきた桐弥の言葉は、やはり簡潔で、淡々としたものであった。



