「竜胆さまは、父さま……桐弥さまのお父さま、そして九条家ご当主さまでいらっしゃるのですね。それでえっと、立花家のご当主さまが」
「おつたえしそびれていましたね。私、立花千菊が立花家当主でございますよ、御刀さま」
鼓御前がひとつひとつ確認をすると、面越しに千菊がにこりと笑う。
たしかに竜胆同様、千菊は家紋の入った黒羽織をまとっていた。
立花家は銀杏の花に似た杏葉紋だ。
『奉納祭』は御三家の代表が執り行う。
千菊が立花家当主であるなら、この場にいるのは当然といえる。
「あら? でもそうすると、おひとりいらっしゃいませんね」
鼓御前を案内したあと、陣は退出している。
この場には、鼓御前、竜胆、桐弥、千菊のほかに人影はない。
「神宮寺家の方は……」
「──失礼いたします」
ふいに聞こえた声があり、鼓御前は口をつぐむ。凛とした、聞きおぼえのある声だ。
ほどなく、鼓御前の思い描いた少年がすがたを現す。
「神宮寺家ならびに鬼塚家当主の名代としてまいりました、莇と申します。お待たせいたしまして、まことに申し訳ございません」
莇は入室するなり、ひざを折ると、腰帯から短刀をはずして自身の右手側へ置く。
そして畳に両手をつき、深々とこうべを垂れる。
竜胆がすっと目を細め、謝罪を口にする莇を見やった。
「これは莇殿。貴殿が最後にいらっしゃるとはめずらしい。なにか不測の事態でも?」
「昨夜遅く北の墓地に〝慰〟が出現いたしました。北部はわが鬼塚家の管轄でございます。そのため対応にあたっておりました」
「なるほど。あやかしどもが、明け方まで好き放題をしていたと見える」
多くをきかずとも、竜胆はいきさつを察したらしかった。
(そうですよね。莇さんなら、こうした場にはいち早くいらっしゃるはずですものね)
莇がうっかり遅刻をするような性分ではないことを、鼓御前も知っている。
となれば、昨晩現れた〝慰〟の対応に手こずっていたのだろう。
「近ごろは、〝慰〟の目撃情報が急増しています」
ふいに、千菊が口をひらく。
「北東部を中心に、〝慰〟は島全体で増加傾向にあるようです」
「北東部となると、鬼門の方角ですな。そこから、あやかしどもが流れ込んできていると。万が一彼奴らを食い止められなければ、島の西部、御刀さまのおわす兎鞠神社への侵入を、ゆるすことになる」
「──させませぬ」
竜胆の語尾をさえぎるように、莇が低くうなる。
「御刀さまが脅かされるなど、あってはなりません。たとえ手足をもがれようとも、この命を懸けて、〝慰〟はわたくしが斬り伏せます」
莇の言葉には迷いがない。
だからこそ、鼓御前は一抹の不安をおぼえる。
(莇さん……無理はなさっていないかしら?)
責任感の強い莇の性格を思えば、寝ずに〝慰〟を斬ってまわるなど、平気でやってのけるだろう。
「おつたえしそびれていましたね。私、立花千菊が立花家当主でございますよ、御刀さま」
鼓御前がひとつひとつ確認をすると、面越しに千菊がにこりと笑う。
たしかに竜胆同様、千菊は家紋の入った黒羽織をまとっていた。
立花家は銀杏の花に似た杏葉紋だ。
『奉納祭』は御三家の代表が執り行う。
千菊が立花家当主であるなら、この場にいるのは当然といえる。
「あら? でもそうすると、おひとりいらっしゃいませんね」
鼓御前を案内したあと、陣は退出している。
この場には、鼓御前、竜胆、桐弥、千菊のほかに人影はない。
「神宮寺家の方は……」
「──失礼いたします」
ふいに聞こえた声があり、鼓御前は口をつぐむ。凛とした、聞きおぼえのある声だ。
ほどなく、鼓御前の思い描いた少年がすがたを現す。
「神宮寺家ならびに鬼塚家当主の名代としてまいりました、莇と申します。お待たせいたしまして、まことに申し訳ございません」
莇は入室するなり、ひざを折ると、腰帯から短刀をはずして自身の右手側へ置く。
そして畳に両手をつき、深々とこうべを垂れる。
竜胆がすっと目を細め、謝罪を口にする莇を見やった。
「これは莇殿。貴殿が最後にいらっしゃるとはめずらしい。なにか不測の事態でも?」
「昨夜遅く北の墓地に〝慰〟が出現いたしました。北部はわが鬼塚家の管轄でございます。そのため対応にあたっておりました」
「なるほど。あやかしどもが、明け方まで好き放題をしていたと見える」
多くをきかずとも、竜胆はいきさつを察したらしかった。
(そうですよね。莇さんなら、こうした場にはいち早くいらっしゃるはずですものね)
莇がうっかり遅刻をするような性分ではないことを、鼓御前も知っている。
となれば、昨晩現れた〝慰〟の対応に手こずっていたのだろう。
「近ごろは、〝慰〟の目撃情報が急増しています」
ふいに、千菊が口をひらく。
「北東部を中心に、〝慰〟は島全体で増加傾向にあるようです」
「北東部となると、鬼門の方角ですな。そこから、あやかしどもが流れ込んできていると。万が一彼奴らを食い止められなければ、島の西部、御刀さまのおわす兎鞠神社への侵入を、ゆるすことになる」
「──させませぬ」
竜胆の語尾をさえぎるように、莇が低くうなる。
「御刀さまが脅かされるなど、あってはなりません。たとえ手足をもがれようとも、この命を懸けて、〝慰〟はわたくしが斬り伏せます」
莇の言葉には迷いがない。
だからこそ、鼓御前は一抹の不安をおぼえる。
(莇さん……無理はなさっていないかしら?)
責任感の強い莇の性格を思えば、寝ずに〝慰〟を斬ってまわるなど、平気でやってのけるだろう。



