御刀さまと花婿たち

 満月型の兎鞠島は東西南北に分けられ、古くから御三家と鬼塚家がそれぞれの地を守ってきた。
 このうち島の南部に屋敷をかまえているのが、刀の製造と保存をになう九条家である。

陰陽道(おんみょうどう)において、南は火をつかさどる朱雀(すざく)が守護をしているとされるの。灼熱の炎と向き合って刀を打ってきた九条家には、うってつけの場所だったってことね」

 左手で鼓御前の鞄をもち、右手で白いレースの日傘をさした虎尾が、道中に語る。
 日射しをさえぎる影のなかで、鼓御前はそわそわと問いかける。

「そうなのですね。それであの、どうして花ちゃんおねぇさまは、陣さまとお名乗りに?」

 いつもは化粧をして女性のようにふるまっている彼が、別人のようになって現れたのだ。
 鼓御前が混乱するのも無理はない。

「あぁ、それはね」

 ふだんの化粧っけはないものの、見目麗しい顔立ちはそのままに、虎尾は口をひらく。

「陣はね、アタシの双子の弟のことよ」
「花ちゃんおねぇさまには、弟さんがいらしたのですか?」
「そうよー、アタシに似ず、コミュニケーション能力が壊滅的でねぇ」

 虎尾によると、弟の陣は小心者で、山小屋に引きこもって鞘ばかり作っている。
 そのため、公の場にめったにすがたを現そうとしないらしい。

「アタシが九条家に出入りするときは、陣のふりをさせてもらってるの」
「弟さんのふり……」

 それはまた、どうして。
 疑問を投げかけようとした鼓御前は、はたと気づく。
 虎尾の行動には、いつも一貫した『理由』がある。

「もしかして……父さまのため、ですか?」
「ふふ、正解」

 さらりと返答あり。
 鼓御前の見解は、正しかったようだ。

「あの子は、虎尾(アタシ)にお世話されたくないみたいだからね」
「花ちゃんおねぇさま……」
「でもこうすればアタシは九条ちゃんのお世話ができて、陣は苦手な人付き合いをしなくていい。おたがい万々歳じゃない?」

 なんでもないように笑みを浮かべる虎尾だが、その横顔が鼓御前にはさびしそうに見え──

「はい、とうちゃーく」

 鼓御前が話しかけるより先に、日傘をたたんだ虎尾がふり返る。

「では、御刀さま、先ほど()()()がおねがいしたこと、重ねてよろしくおねがいしますね」

 にこり。見慣れた笑みであるはずなのに、鼓御前にはまるで別物のように感じられた。
 美しいけれど、そこに艶やかさはない。素朴な笑みだった。

「わかりました」

 鼓御前の目の前には、厳かな薬医門(やくいもん)がそびえる。
 そのむかし、医家の門として使われていたという。
 門扉の横に簡単な木戸があり、門を閉めても人の往来を妨げない造りになっている。
 そうして夜間も患者を受け入れていたのである。

 創造と保存の九条家。
 刀が生まれ、穢れが祓われるこの場所は、まさに刀剣の医療機関といっても過言ではないだろう。
 この門の先に一歩足を踏み入れたなら、立ち止まることは許されない。

「まいりましょう」

 ひとつ深呼吸をした鼓御前は、陣の背に続き、門をくぐった。