御刀さまと花婿たち

「わざわざお越しいただき、ありがとうございます──」

 ひなの刺すような視線を背中に感じながら、玄関の引き戸を開ける。
 そこには、ひとりの青年がたたずんでいた。

「九条家より参りました。御刀さまのお世話をつとめさせていただきます、(じん)と申します。お見知りおきを」
「これはご丁寧に。鼓御前でございます…………あら?」

 深々とお辞儀をした鼓御前は、顔を上げ、固まった。
 陣と名乗った彼は、薄墨色(うすずみいろ)の無地の着物をまとっていた。
 鼓御前が見上げるほど、上背のある青年だ。
 たしかなことはわからないが、見た目はおおよそ二十代なかば。
 すらりとした長身で、美青年と呼ばれる部類の顔つきだろう。
 しかし、鼓御前が思わず絶句してしまった理由は、ほかにある。
 なぜなら癖のある紫紺の髪に、唐茶色の瞳と、その青年の容姿に見覚えがありすぎて。

「えーっと……花ちゃんおねぇさま……?」
「はいっ? と、虎尾さま……!?」

 ひなは信じられないといった様子だ。
 だが、この違和感は気のせいではないだろう。
『彼』の特徴でもあった右目の下の泣きぼくろが、同じ位置にあるのだから。

「花ちゃんおねぇさま……ですよね?」

 再度たずねてみる。
 そんな鼓御前へ向かって、『陣』がほほ笑む。

「あはっ」

 そのとき、鼓御前とひなは確信した。これは、間違いないと。

「よくわかったわねぇ。お化粧してないと、だいぶ印象がちがうと思うんだけど」
「雰囲気といいますか、霊力の気配も同じでしたし」
「さすがつづちゃんだわぁ」

 目の前にいるのは、立派な成人男性。
 しかし口もとに袖を当て、「うふふ」と上品に笑う仕草は、間違いなく虎尾のものであった。

「あのう、虎尾さま。これはいったい……?」

 まさかまさかの展開だ。
 混乱まっただ中のひなが、おずおずと挙手をする。

「見てのとおりよ、九条家の使いで来たの。アタシなら、御刀さまのお世話係として及第点かしら、ひなちゃん?」
「えっ……あっ」

 ひなが呆けているうちに、虎尾は流れるような所作でひなが抱えていた鞄を引き取る。

「でもいまは『陣』ね。九条家にいるあいだは、そう呼んでもらえると助かるわ。そのほうがアタシも動きやすいから。つづちゃん、おねがいできる?」
「は、はい……わかりました」
「ありがとう。それじゃあ暑いなか立ち話もなんだし、早速行きましょうか」

 なにがなんだかわからずじまいだが。
 とりあえず虎尾と陣は、同一人物で間違いないらしい。
 鼓御前は首をかしげつつも、さしだされた虎尾──いや、陣の手を取る。

「それでは御刀さま。九条本家まで、わたしがご案内いたします」

 恭しく頭を垂れる青年は、虎尾であって、虎尾ではなかった。