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強い日射しが照りつける夏の日。兎鞠神社にて。
「──納得いきません、鼓御前さまっ!」
蝉を黙らせるほどの声量で、ひなが吠えていた。
場所は玄関へ向かう廊下。
状況としては、空色のワンピースをまとった鼓御前を、ひなが呼びとめているところ。
鼓御前は困っていた。
ひなが抱えて離さない鞄、あれを渡してもらわないことには、玄関を出ることもできないのだ。
「ひなさん、私はこの島の神刀として、『奉納祭』のおてつだいをしなければなりません。そのために九条家へお邪魔することになっておりまして」
「重々承知しております。でも、でも……鼓御前さまの世話役は私なのですよ。なのに……どうして私がそのへんの使用人にこのお役目を明けわたさなければならないのですか、納得いきませんっ!」
「お、落ち着いてください……!」
夏休みがはじまって三日ほど。
御三家の主体となって『奉納祭』を執り行う九条家より、御刀さまを迎え入れる準備がととのったとのしらせがあった。
そのため、鼓御前も支度をととのえたわけなのだが……ひなは同行を許されず。
それゆえ、鼓御前の『お泊まりセット』を奪ったまま、こうして吠えているのである。
「えっと、わたしも、身のまわりのことはひととおりできるようになりました。ひなさんのおかげです!」
「鼓御前さま……」
「ですから心配はなさらないでください、ねっ!」
「でも、二週間もごはんを作ってさしあげられないなんて、耐えられません……おのれ九条家! 鼓御前さまのお好きなお味噌汁のお味噌の配合も知らないくせにっ!」
「あわわ……ひなさーん!」
なんとかなだめようとする鼓御前だが、だめだった。
落ち着くどころか、ひなの不満はヒートアップしてゆく。
「はぁ、はぁ……あら、お迎えの時間ですか」
そうこうしているうちに、呼吸をととのえたひなが、スン……と真顔になる。
ひなに代わって九条家で鼓御前の世話をする『世話役』が、じきにやってくる頃合いだ。
「いいでしょう。九条家のえらんだ世話役がどれほどのものか、私が見定めましょう」
「ひ、ひなさん……」
ぎらり。ひなの眼光が鋭くまたたく。さながら獲物を待ち受ける猛獣である。
「──ごめんくださいませ」
うわさをすればなんとやら。待ち人が来たようだ。
「あっはい、ただいま!」
鼓御前は慌ててワンピースの裾をひるがえし、玄関へ駆けてゆく。



