「刀の姉さまも堪能したかったんだけどなぁ」
葵葉が名残惜しげに峰をひとなでする。
漆黒の刀が光につつまれ、ほほをふくらませた少女のすがたがあらわれた。
「なんだ、怒ってるの? かわいいなぁ」
「〝慰〟を祓ったんですから、はやく莇さんをつれて帰りますよ! 怪我の処置をしないと!」
デレデレとほほをゆるませきっている弟が、言うことを聞くとは思えなかった。
わたしがやったほうがはやいわ、と鼓御前は鼻息も荒く莇へ近寄ると、はりきってかつぎ上げようとする。
「よいしょ……あらっ?」
が、意識のない莇の腕を肩に回そうとしたとき、なぜだか鼓御前の視界が回る。
(なんだか急に、足に、力が……)
まるで両足に鉛をさげているかのようだ。
鼓御前はうまく土を踏みしめることができず、かくりとひざからくずれ落ちる。
「姉さま……!?」
葵葉はすぐに姉の異変を察知。
だが、伸ばした右手は虚空を掻くだけ。
(転んでしまう……!)
反射的に目をつむる鼓御前。
しかし、直後にふわりとからだが浮くような感覚にみまわれる。
「──鼓御前」
だれかに、名を呼ばれた。
「こわがらないで。目をあけてごらん」
「……え」
葵葉のものではない、若い男の声がする。
やわらかく、おだやかなひびきで、ひどく心地よい声音だ。
こわごわとまぶたを持ち上げた鼓御前は、紫水晶の双眸を極限まで見ひらく。
見知らぬ男の腕に抱き上げられていた。
そしてなにより鼓御前に衝撃を与えたのは、こちらをのぞき込んでいたその男のすがた。
──竜だ。
髭を垂らし、カッと金色の眼を剥いた竜頭の面で顔の上半分をかくした男が、そこにいた。
竜頭の面は憤怒の表情であるのに、唯一あらわになった口もとは、ゆるりと笑みを浮かべている。
そのおそろしい出で立ちからは想像もつかぬ繊細な手つきで、少女の白いほほをなでながら。
葵葉が名残惜しげに峰をひとなでする。
漆黒の刀が光につつまれ、ほほをふくらませた少女のすがたがあらわれた。
「なんだ、怒ってるの? かわいいなぁ」
「〝慰〟を祓ったんですから、はやく莇さんをつれて帰りますよ! 怪我の処置をしないと!」
デレデレとほほをゆるませきっている弟が、言うことを聞くとは思えなかった。
わたしがやったほうがはやいわ、と鼓御前は鼻息も荒く莇へ近寄ると、はりきってかつぎ上げようとする。
「よいしょ……あらっ?」
が、意識のない莇の腕を肩に回そうとしたとき、なぜだか鼓御前の視界が回る。
(なんだか急に、足に、力が……)
まるで両足に鉛をさげているかのようだ。
鼓御前はうまく土を踏みしめることができず、かくりとひざからくずれ落ちる。
「姉さま……!?」
葵葉はすぐに姉の異変を察知。
だが、伸ばした右手は虚空を掻くだけ。
(転んでしまう……!)
反射的に目をつむる鼓御前。
しかし、直後にふわりとからだが浮くような感覚にみまわれる。
「──鼓御前」
だれかに、名を呼ばれた。
「こわがらないで。目をあけてごらん」
「……え」
葵葉のものではない、若い男の声がする。
やわらかく、おだやかなひびきで、ひどく心地よい声音だ。
こわごわとまぶたを持ち上げた鼓御前は、紫水晶の双眸を極限まで見ひらく。
見知らぬ男の腕に抱き上げられていた。
そしてなにより鼓御前に衝撃を与えたのは、こちらをのぞき込んでいたその男のすがた。
──竜だ。
髭を垂らし、カッと金色の眼を剥いた竜頭の面で顔の上半分をかくした男が、そこにいた。
竜頭の面は憤怒の表情であるのに、唯一あらわになった口もとは、ゆるりと笑みを浮かべている。
そのおそろしい出で立ちからは想像もつかぬ繊細な手つきで、少女の白いほほをなでながら。


