御刀さまと花婿たち

「つづちゃん、さっき立花センセたちと話してたわね。それなら『奉納祭』のことは聞いたかしら」
「はい。ひとびとのため、覡さまが神楽を舞う特別な日なのでしたよね」
「今年の神楽の舞い手は、九条ちゃんよ」
「まぁ……九条家の方だとはうかがっておりましたが、父さまだったとは」
「本家にもどったら、祭りの成功に向けて、この子はからだを酷使するでしょうね」

 そこまで言われれば、鼓御前も虎尾の言わんとすることを悟る。

「がんばりすぎないでほしい。それをつたえたいだけなの。でも、うまくいかないものね。アタシは、この子の家族でもなんでもないし。……きっと、つづちゃんがそばにいてあげるのが一番なんだと思うわ」

 唐茶色の瞳を細め、薄く笑う虎尾。
 彼にしてはめずらしい、自嘲の笑みだった。

「なぁんて。辛気くさい話になっちゃったわね、気にしないで」
「花ちゃんおねぇさま……」
「あら、アタシとしたことが。飲み物を買ってくるのを忘れてたわ」

 打って変わり、虎尾はいつものにこやかな笑みを浮かべると、腰をあげる。
 そうして向かったさきには、部屋に備えつけの冷蔵庫が。

「どれどれ……あらま、想像以上に空っぽだったわ」

 これまた慣れたように、冷蔵庫を確認する虎尾。
 中には、水の入ったペットボトルが一本あるのみ。

「作りおきしておいたごはんは、ちゃんと食べてるわね。えらいじゃない」

 桐弥をふり返った虎尾が、満足げに口もとをほころばせる。

「さてと。アタシはちょっと買い出しに行ってくるわね。そのあいだ、九条ちゃんのことを見ててもらえるかしら?」
「もちろんです。おまかせください」
「ありがとう、おねがいね」

 そういって玄関のほうへ向かおうとする虎尾だが、ふと足を止める。

「ねぇ、つづちゃん。ウチの寮はふたり部屋なんだけど、九条ちゃんはひとり部屋でね」
「そういえば、葵葉と莇さんは同室ですけれど、どうしてでしょう?」

 思いだしたように、虎尾が問いかけてきた言葉。これにはなんの意味があるのだろう。
 鼓御前が意図をはかりかねていると、虎尾がくすりと笑みをもらす。

「なぜかというと。九条ちゃん、ここでこっそりお世話してる子がいるみたいでね」
「こっそりお世話……えっと、どなたを、でしょう?」
「狐ちゃんよ」
「狐ちゃん……ですか」
「そう。わんちゃんでも猫ちゃんでもなく、狐ちゃん」

 虎尾はふふ、と笑みをこぼし、

「アタシは一度も見たことがないの。もし見かけたら、ラッキーかもね」

 そう言い残して、部屋をあとにした。