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桐弥が体調をくずしたらしい。
そうと聞いた鼓御前は、虎尾とともに桐弥のもとへ駆けつけた。
「このあいだ、九条ちゃんがあおちゃんと莇ちゃんをボコボコにした日があったでしょ? あのときから調子が悪かったのよ」
桐弥を物理的に布団へ寝かしつけた虎尾が、脇で正座をした鼓御前をふり返る。
「九条ちゃんの機嫌がすこぶる悪いときは、体調をくずしてるときだからね」と、付け足しながら。
「そうすると、もう一週間はたちますね……父さまのお加減、そんなにかんばしくないのでしょうか?」
「風邪自体はたいしたことないわよ。いつものことだし」
「いつものこと……?」
「九条ちゃんね、生まれつきからだが弱いのよ。全然顔に出さないから、わかりづらいでしょう。いまはマシになったほうね。むかしはしょっちゅう寝込んでたもの」
そういえば。鼓御前も気になっていたことがある。
桐弥は一匹狼気質で、あまり他人を寄せつけようとしない。
クラスメイトも話しかけるのをためらうほどだ。
だが、虎尾だけはちがった。
桐弥相手にも遠慮なく接している。
そしてなにより、ほかのだれも気づかない細かなことまで、桐弥を気遣っていることが見て取れた。
「花ちゃんおねぇさまは、父さまと長いお付き合いなのですか?」
単に教師と生徒というだけの関係ではない。
鼓御前の認識は、間違っていなかったようで。
桐弥に布団をかけた虎尾が、ふと唐茶色の視線を伏せた。
「そうねぇ。前に、アタシのお家事情は話したでしょう」
「えぇ。鞘師の家系のご出身だとか」
「刀を打つ刀匠はもちろん、鞘師、研師、彫師、白銀師、塗師、柄巻師、金工師、鍔工師……日本刀の作刀にかかわる職人は大勢いるの。そのすべてをまとめているのが、九条家よ」
創造と保存の九条家。
御三家のうち、九条家がそう呼ばれていることは、虎尾にも教えてもらった。
「なかでもウチは九条家と親交が深くてね。まだ幼い次期当主サマ──この子のお世話係に、アタシが任命されたってわけ」
「お世話をなさっていたから、花ちゃんおねぇさまは父さまについてお詳しいのですね」
「そういうこと。つづちゃんにとっての、ひなちゃんみたいなものよ」
それは、ここ二、三年のお話ではないだろう。
教師である以前に、虎尾は桐弥の付き人だった。
桐弥が幼いころから、その成長を見守ってきたのだ。
「最初は、肝心のこの子が煙たがってお世話させてくれなかったけどね。敬われるなんて柄じゃないんですって。ほんと、こどもらしからぬ物言いをする子だったわ」
「そうだったのですね……」
桐弥と虎尾の過去。
それが語られるごとに、ふたりの独特な関係性が鼓御前も腑に落ちた。
布団に横たわる桐弥の頭を虎尾がなでているのも、そうあるべき光景だったのだ。



