御刀さまと花婿たち

「気負いすぎる必要はないですよ。みんなで協力すればいいんですから。ね、つづ?」
「そ、そうですね! りらっくす、です!」
「お気遣いありがとうございます。ところで、鼓御前さま。お顔が赤いようですが……?」
「今日も暑いからですねぇ!」
「はっ、まさか暑気あたりですか!?」
「どう見てもちがうだろ。はぁ……黙ってながめてるあんたも、いい性格してるよな。立花センセ」

 あたふたと慌てる鼓御前から千菊へ視線をうつし、葵葉はため息。

「なんのことでしょう?」

 案の定、千菊からはとぼけた返答がある。
 葵葉はさらにため息をつきながら、席を立つ。そして。

「からかうのも大概にしとかないと、俺も黙ってねぇぞ」
「わわ……!」

 ぐっと、鼓御前の肩を抱き寄せた。
 ふいのことで鼓御前は大きくよろけ、葵葉の胸に倒れ込むかたちとなってしまう。

「おやおや。私が悪者みたいですね」
「いじめてるやつが言う台詞か?」

 葵葉の言葉はそっけない。
 千菊もにこやかな口調のままだが、どことなく周囲の気温が下がったような。

「……葵葉と立花先生は、なんで不穏なやり取りをしているんだ?」

 そしてこの場において、莇だけが状況を理解していなかった。
 なにせ、筋金入りの刀剣オタクである。
 要はそれ以外のことに関しては、ポンコツなのであった。

「こんにちわぁ。あら? これってまさか修羅場ってやつ?」

 そんなときだった。どこからともなく、聞きおぼえのある声が教室にひびいたのは。

(このお声は……!)

 助かったわ、と鼓御前は安堵した。
 想像どおりの人物──虎尾が、教室の入り口で笑みを浮かべていたから。

「みなさんおそろいねぇ。ところで、困ってるつづちゃんのことは見えてないのかしら?」

 虎尾は笑っている。笑っているのだが──

「論外ね。──すっ込みなさい、野郎ども」

 ……ぞわり。
 虎尾の口から地を這うような低音が吐きだされ、鼓御前は肌が粟立つのを感じた。

「まったく……用事があってきてみたらコレよ。呆れちゃうわね。つづちゃん、大丈夫?」
「……あ、お、おかまいなく!」

 ぽかんとしているあいだに、虎尾によって葵葉と千菊から引き離されていた。
 そのことに遅れて気づき、鼓御前は慌てて頭を下げる。

「虎尾先生」
「はいはい。言ったでしょ、用事があったって。そんなわけでつづちゃんはお借りするわ。文句は聞かないわよ」

 何事か言いかけた千菊の言葉もさえぎり、虎尾は鼓御前の右手を取る。

「それではみなさま、ごきげんよう」

 そうして虎尾は、鼓御前を教室から連れだしたのだった。



「……あの、花ちゃんおねぇさま!」

 教室を飛びだしてしばらく。
 階段をおり、昇降口へと向かう虎尾の背に、鼓御前は呼びかける。

「こうでもしないと、男子って気づいてくれないバカばっかりなのよね」
「ば、ばか……」

 歯に衣着せぬ物言いに、鼓御前がおどろきを隠せずにいるころ。
 ふと虎尾が歩を止めた。

「無理やりつれてきちゃってごめんね。でも、どうしてもあなたに頼みたいことがあって」
「わたしに……なんでしょう?」
「九条ちゃんのことで、ちょっとね」
「──!」

 千菊相手にもはっきりと物を言う虎尾が、言葉を濁している。
 なにかしらの一大事が起こったのだろうと、簡単に予想はつく。

「事情は行きながら説明するわ。アタシに、ついてきてもらえるかしら」
「はい、わかりました!」

 ふたつ返事でうなずいた鼓御前は、虎尾に続いて校舎を出る。
 じりじりと肌を焼くような炎天下。
 鳴りやまぬ蝉時雨のごとく、鼓御前の胸はざわめいていた。