御刀さまと花婿たち


  *  *  * 


 文月も終わりにさしかかるころ。
 神梛(かんなぎ)高等専門学校は、一学期の終業式をむかえた。

「はぁ、終わったぁ……つかれたぁ」

 この日すべての日程を終えるや否や、葵葉が机に突っ伏す。
 鼓御前は窓際の席に歩み寄ると、盛大にため息をつく弟をなだめる。

「もう。明日から長期のお休みなんでしょう? もっとうれしそうにしたらどうですか?」
(あね)さまはわかってないな。夏休みってことは、授業がないってことだ。つまり」
「つまり?」
「朝から晩まで、地獄のスパルタ三昧ってことなんだよ……だれのとは言わないけど!」
「おや、呼びましたか?」
「うげっ……!」

 がばり。机から身を起こした葵葉の顔が引きつる。
 それも仕方ない。
 物々しい竜頭の面をつけた青年が、突然目の前に現れたのだから。
 無意識のうちに、鼓御前もぴくりと身がこわばる。

「だからあんたはっ、急に来んなって! 気配なかったぞ!」
「そうはいっても、先生が学校にいるのは当たり前のことですしねぇ」

 千菊の声はおっとりとしたものだ。
 だからこそ、葵葉は寒気がしてしょうがない。

「はりきっているようで感心です。明日からも、先生と特訓をがんばりましょうね」
「もうやだ……このひとホントにやだ……」
「陰口なんか言ってるから、こんなことになるんだぞ」

 いつの間にか莇もやってきて、呆れたように肩をすくめる。

「他人事みたいに言いやがって! おまえも道連れにしてやる!」
「残念だが、それは無理だな」
「はぁ? ひとりだけ抜け駆けする気か!?」
「ちがう。とにかく落ち着け」

 食ってかかる葵葉だが、莇の対応は落ち着いたものだった。

「特訓を続けたいのは山々なんだが、この夏休み期間中、おれは本家にもどらなくちゃいけない」
「は? 本家? どういうことだ」
「『奉納祭』を間近にひかえているからですよ。その件で、私もさっきまで莇さんとお話をしていたんです。つづ、きみにも関係のあることですよ」
「わ、わたしにも、ですか?」

 まさか話をふられるとは思わず、鼓御前の声が上ずる。
 その様子をじっと見つめた千菊は、おだやかな口調で続ける。

兎鞠島(とまりじま)では、年に一度、夏の時期に『奉納祭』が執り行われます。ひとびとの無病息災をねがい、八百万(やおよろず)の神々に神楽を奉納するんです」
「へぇ。それが、姉さまとなんの関係が?」
「奉納する神楽は、覡による剣舞です。舞い手は御三家の者。そして祭事中にかぎり、舞い手は御刀さまにふれることを特別に許可されてきました」
「それって……」
「えぇ。つづも毎年やってきたことですよ。きみには、記憶がないでしょうけれどね」

 鼓御前が人の身を得たのは、ほんの三ヶ月ほど前の話。
 それまでは鞘のなかで、深い眠りについていた。
 けれど千菊の話から、『それ』が毎年たしかに受け継がれてきたことをうかがい知る。

「毎年この時期は、御三家の代表があつまり、『奉納祭』の準備をします」
「それじゃあ、おまえが本家にどうのこうのってのも?」
「あぁ。おれはいま鬼塚家に身を寄せているが、神宮寺家の当主である父が病床に伏せっている。そのため父の名代として参加することになる」
「今年の神楽の舞い手は、九条家の担当です。私たちはその補佐をするような感じですね」
「昨年は立花家。来年は神宮寺家が担当することになるだろう。……おれも気を引きしめて臨まなければ」

 首に巻いた薄青色のストールをきゅ、とにぎりしめ、莇がつぶやく。