御刀さまと花婿たち

 もともと莇は、虎尾に呼ばれていたらしい。
 神社へやってきたのはそのためだと。
 では、なぜ虎尾が莇を呼んだのかというと──

「申し訳ございません、虎尾先生のお言葉には了承しかねます」
「はいはい。いいからさっさと脱いじゃってね」
「僭越ながら! お見苦しいものをお見せしますので!」
「往生際が悪い! つべこべ言わずにとっとと脱ぐ!」

 あれからしばらく。
 居間では覡の装束を脱がしにかかる虎尾と、断固拒否を示す莇とで、攻防戦がくり広げられた。
 まぁほどなくして、虎尾の勝利に終わったのだが。

「ねぇ莇ちゃん、このやり取り何回目よ? アタシがあなたの痣の様子を定期的に診るようになってるのは、わかってるわよね?」
「それは、そうなのですが……」

 白衣(びゃくえ)をはだけさせられた莇は、見るからにしゅんと気落ちしている。
 その理由に、鼓御前は思いあたることがあった。

(首の痣のこと、まだ負い目のように思ってらっしゃるのかしら)

 莇は、自身の首にある痣を他者に見せたがらない。
 和装時は首もとを隠すインナーを着込んでいる。
 夏服に衣替えしたいまの季節も、首に何重もさらしを巻いて登校しているほどだ。

「莇さん。痣があるからといって、莇さんが不自由な思いをする必要はないと思いますよ」
「ありがとうございます、鼓御前さま。これを恥ずべきものだとは、もう思っていません」

 鼓御前の言葉に、莇はほほ笑みを返す。
 以前ほど劣等感はおぼえなくなったようだが、やはり彼にとって、痣の存在はそう簡単に払拭できるものではなかった。

「この痣を見て、不快な思いをする方はいらっしゃいます。ですからおれにできることは、そうした方々に配慮することなのです。むやみにだれかを傷つけたくはないですから」

 なにかを言いかけたひなが、悔しげに言葉を飲み込む。
 莇のいう「だれか」の多くが、生家である神宮寺(じんぐうじ)家の者であることを知っているために。