真っ赤にはじける花火の風鈴が、軒に吊るされている。
──ちりん。
ときおり庭からそよ風が吹き込むと、澄んだ音色が奏でられる。
「夏ねぇ」
「夏ですねぇ」
目の覚めるような真っ青な空に、入道雲がわき立つ昼下がり。
この日も御刀さまをたずねて、兎鞠神社をおとずれる者がいた。
結論からいう。虎尾である。
よく冷えた麦茶をひとくち飲んだ虎尾は、手にした切子のグラスを座卓に置く。
その拍子に、氷がカランカランと涼しげな音を立てた。
座卓をはさんだ向かいには、白い三角襟に空色のワンピースを着た鼓御前が座っている。
「アタシがプレゼントしたお洋服、着てくれたのね」
「はい、とっても着心地がいいです。さすが花ちゃんおねぇさまお手製のお洋服ですね!」
「よろこんでくれてうれしいわ。それで、今日はアタシにどんなご用かしら?」
「えっと……ですね。ちょっと、ご相談がありまして」
御刀さまをたずねる者は数あれど、御刀さまがひとを呼ぶことはめずらしい。
さらに「ふたりきりで」という条件つき。
われらが御刀さまに指名されて、よろこばない覡はいない。
「アタシでよければ、なんでも相談に乗るわよ」
虎尾は卓上に頬杖をつき、にっこりと笑みを浮かべる。
するとお茶請けの水ようかんにも一切手をつけていない鼓御前が、うつむきがちに、もじもじと口をひらく。
「ありがとうございます。それではその、早速おたずねしたいのですが……」
「うんうん」
「花ちゃんおねぇさまは、どなたかをすきになったことはありますか? えっと、恋愛的な意味? で!」
──しん。
静まり返った部屋にちりん、と風鈴の音がひびき、鼓御前は我に返る。
なぜか虎尾は、満面の笑みを浮かべたままだった。
「やだ……それ聞いちゃう?」
「はっ、失礼しました! ぶしつけにすきな殿方のことを聞くなんて、厚かまし…………んっ?」
とここで、鼓御前は『そもそもの疑問』に気づく。
(花ちゃんおねぇさまは、男性がお好きなのかしら? いえ、ほんとうは女性がお好きだとか……?)
鼓御前にとって、男性でありながら女性のごとくふるまう虎尾のような人種は見慣れないもの。
いわば未知の生命体だ。
男か女かもさだかではない相手に『恋愛』について質問してしまえば、混乱をきたすのも道理であった。
「そうそうつづちゃん。せっかくだし、とっておきのものをプレゼントさせてちょうだい」
「えっ? あ、はい」
鼓御前がぐるぐると思考をまとめられずにいると、脈絡もない発言がある。
そうして虎尾が、おもむろにさしだしてきたのは──
「これは、傘ですか?」
「傘は傘でも、日傘ね。最近日射しが強くなってきたでしょ? おひさまの光が強い日に、使うのよ」
「そうなんですね。わぁ、かわいらしいです」
虎尾が贈ったのは、白いレースの日傘だ。
縁側のほうへ出て日傘をひらいた鼓御前も、ひと目見て気に入ったらしい。
白と空色。
ワンピースとの相性もよく、夏らしい爽やかな色合いだ。
「すてきな贈りものをありがとうございます、花ちゃんおねぇさま!」
くるり。
鼓御前がふり返ると、フレア生地の空色の裾がひるがえった。
虎尾も満足げにうなずく。
「どういたしまして。あぁそうだわ。その日傘にはもうひとつ画期的な使い方があってね」
「画期的な使い方……ですか?」
「ちょっかいを出してくる野郎をぶん殴るのに使うといいわよ。そうね~、たとえば、立花センセとか?」
「はなはなっ、花ちゃんおねぇさま!」
「あら、カマかけただけだったのに。オンナの勘ってこわいわねぇ」
目に見えて、鼓御前の挙動がおかしくなった。
これを受け、虎尾がため息まじりに顔をしかめる。
──ちりん。
ときおり庭からそよ風が吹き込むと、澄んだ音色が奏でられる。
「夏ねぇ」
「夏ですねぇ」
目の覚めるような真っ青な空に、入道雲がわき立つ昼下がり。
この日も御刀さまをたずねて、兎鞠神社をおとずれる者がいた。
結論からいう。虎尾である。
よく冷えた麦茶をひとくち飲んだ虎尾は、手にした切子のグラスを座卓に置く。
その拍子に、氷がカランカランと涼しげな音を立てた。
座卓をはさんだ向かいには、白い三角襟に空色のワンピースを着た鼓御前が座っている。
「アタシがプレゼントしたお洋服、着てくれたのね」
「はい、とっても着心地がいいです。さすが花ちゃんおねぇさまお手製のお洋服ですね!」
「よろこんでくれてうれしいわ。それで、今日はアタシにどんなご用かしら?」
「えっと……ですね。ちょっと、ご相談がありまして」
御刀さまをたずねる者は数あれど、御刀さまがひとを呼ぶことはめずらしい。
さらに「ふたりきりで」という条件つき。
われらが御刀さまに指名されて、よろこばない覡はいない。
「アタシでよければ、なんでも相談に乗るわよ」
虎尾は卓上に頬杖をつき、にっこりと笑みを浮かべる。
するとお茶請けの水ようかんにも一切手をつけていない鼓御前が、うつむきがちに、もじもじと口をひらく。
「ありがとうございます。それではその、早速おたずねしたいのですが……」
「うんうん」
「花ちゃんおねぇさまは、どなたかをすきになったことはありますか? えっと、恋愛的な意味? で!」
──しん。
静まり返った部屋にちりん、と風鈴の音がひびき、鼓御前は我に返る。
なぜか虎尾は、満面の笑みを浮かべたままだった。
「やだ……それ聞いちゃう?」
「はっ、失礼しました! ぶしつけにすきな殿方のことを聞くなんて、厚かまし…………んっ?」
とここで、鼓御前は『そもそもの疑問』に気づく。
(花ちゃんおねぇさまは、男性がお好きなのかしら? いえ、ほんとうは女性がお好きだとか……?)
鼓御前にとって、男性でありながら女性のごとくふるまう虎尾のような人種は見慣れないもの。
いわば未知の生命体だ。
男か女かもさだかではない相手に『恋愛』について質問してしまえば、混乱をきたすのも道理であった。
「そうそうつづちゃん。せっかくだし、とっておきのものをプレゼントさせてちょうだい」
「えっ? あ、はい」
鼓御前がぐるぐると思考をまとめられずにいると、脈絡もない発言がある。
そうして虎尾が、おもむろにさしだしてきたのは──
「これは、傘ですか?」
「傘は傘でも、日傘ね。最近日射しが強くなってきたでしょ? おひさまの光が強い日に、使うのよ」
「そうなんですね。わぁ、かわいらしいです」
虎尾が贈ったのは、白いレースの日傘だ。
縁側のほうへ出て日傘をひらいた鼓御前も、ひと目見て気に入ったらしい。
白と空色。
ワンピースとの相性もよく、夏らしい爽やかな色合いだ。
「すてきな贈りものをありがとうございます、花ちゃんおねぇさま!」
くるり。
鼓御前がふり返ると、フレア生地の空色の裾がひるがえった。
虎尾も満足げにうなずく。
「どういたしまして。あぁそうだわ。その日傘にはもうひとつ画期的な使い方があってね」
「画期的な使い方……ですか?」
「ちょっかいを出してくる野郎をぶん殴るのに使うといいわよ。そうね~、たとえば、立花センセとか?」
「はなはなっ、花ちゃんおねぇさま!」
「あら、カマかけただけだったのに。オンナの勘ってこわいわねぇ」
目に見えて、鼓御前の挙動がおかしくなった。
これを受け、虎尾がため息まじりに顔をしかめる。



