御刀さまと花婿たち


  *  *  *


 余談だが。
 最後に面会許可がおり、島を出るゆみへ言いたいことはないか問われたふゆは、こう返したらしい。

「はんごろしですね」

 すりこぎを片手に、「あらやだ。もち米のつぶし加減のことですよ?」と付け足して。
 これに紫陽は「きゅんきゅんしちゃった……」と語り、ふゆ本人は「スカッとしました」と満面の笑みを浮かべた。
 船に乗る前からゆみが顔面蒼白だったことは、言うまでもない。


「うーん、やっぱりふゆおばあちゃまのおはぎは、絶品です!」

 ふゆと紫陽は、日が暮れる前に帰っていった。
 ふたりがいるあいだはおしゃべりに夢中になっていたので、鼓御前はこれからゆっくりと桜あんのおはぎを味わうことにした。
 だが、すこし困ったことがあり。

「おやおや。お夕飯が食べられなくなってしまいますよ?」
「うぅ……!」

 ふゆがはりきっておはぎを作りすぎた。
 が、目の前にあるものを残してしまうのも忍びない。
 ふたつめのおはぎへ手をのばそうとしたとき、頭上からふってきた千菊の言葉に、鼓御前は萎縮してしまう。

「それは、ひなさんに申し訳ないです……」

 ひなは毎日欠かさず台所に立ち、真心のこもった手料理をふるまってくれる。
 食後のおやつにすればよいのだが、残念ながら鼓御前には、別腹という概念がなかった。

「あるじさま、半分こしませんか?」

 丸々ふたつはあやしいが、分ければなんとかなるだろう。
 そう考えた末の提案だった。
 無自覚な鼓御前の上目遣いに、千菊は破顔する。

「いいですよ」

 千菊は鼓御前のとなりに座り直すと、菓子楊枝でおはぎをふたつに分けてゆく。

「はい」

 さらに食べやすくひとくち大にしたものが、差しだされる。
 鼓御前は「あーん」と口をあけ、ぱくりとおはぎを食べた。

「うふふ、ひとつのものを分けあうのも、いいものですねぇ」

 にこにこと話す鼓御前。
 かと思えば、「そういえばごぞんじですか?」と思いだしたように口をひらく。
 それが爆弾だとも知らずに。

「ふゆおばあちゃまの桜あんのおはぎは、若い娘のあいだで大人気なんだそうです。理由は……えっと、気になる殿方と食べると、恋が叶う、だったかしら?」

 鼓御前としては、ひなに教えられたことを一生懸命に思い返しただけだ。
 だから、ぴくりと千菊が身じろいだことに気づかない。

「……きみは、恋に興味があるのですか?」
「恋というものがなにか、まだ完全には理解できていないのですが……きっと、ふゆおばあちゃまと紫陽さまのような関係のことを指すのでしょうね」

 しあわせそうに笑いあうふゆと紫陽。
 ふたりを見ているうちに、鼓御前にも芽生えた感情がある。

「うらやましいな……と思いました。できるものなら、わたしも恋をしてみたいです」
「してみますか?」
「いいのですか? もちろんです!」

 鼓御前は反射的に返事をしてしまった後、「…………うん?」と首をかしげる。

「あのう、あるじさま。恋は難しいものだと聞きました。したいからといって、できるものなのでしょうか……?」
「できますよ」

 千菊の返答は、あっさりとしたものだった。

「私なら、きみの望みを叶えてあげられます」

 千菊がほほ笑んでいる。それはいつものことなのに、ふだんとなにかが違う。