* * *
この日、兎鞠神社をおとずれる小柄な人影があった。
「ごめんください」
『客人』がやってきたようだ。
鼓御前が玄関へ向かうと、そこには思い描いていたとおりの人物のすがたがあった。
「お待ちしておりました、ふゆおばあちゃま!」
「こんにちは、御刀さま」
──ふゆだ。
風呂敷を片手に、しわくちゃの顔でほほ笑んでいる。
「わざわざご足労いただき、申し訳ないです。ここまで大変でしたでしょうに……」
ふゆは足を悪くしていたはずだ。
しかし鼓御前の心配をよそに、ふゆははつらつとしていた。
「いえいえ、ご心配は無用ですよ。『彼』がいてくれましたからねぇ」
ふゆが笑うと、ふわりと風がそよぎ──かたわらに淡色の着物をまとった青年が現れた。
「あらためまして、御刀さまにごあいさついたします。紫陽と申します」
はらり、ひらり。
青年、紫陽が気恥ずかしげに笑むと、いじらしい桜の花びらが舞い散る。
「お土産をお持ちしました。どうぞ、お召しあがりくださいな」
小腹が空く八つ時のこと。
満面の笑みのふゆが、そうして風呂敷を差しだすのだった。



