御刀さまと花婿たち

「ねぇ紫陽さま。知っているかしら? 私がぜんぶ、知っているってこと」
「どういう、ことだい……?」
「ふふっ、教えてあげるわ」

 くすり。笑みをもらしたふゆが、紫陽の瞳からこぼれた花びらをすくいとる。
 そして、紫陽の目の前へさしだした。

「あなたはうれしいとき、色を変えるのよ」
「え…………」

 紫陽は、信じられない光景を見た。
 青と紫がにじんだ淡い花びらが、ふゆの手のひらにふれ、桜色に色づいたのだ。
 その色は、彼女が作るあのおはぎとおなじ。

「この桜は、あなたと私の想いがまじわったあかし。()()()()()()()()って、私言ったわよね?」
「なっ……なななっ……!」

 その瞬間、紫陽はすべてを理解した。
 顔から火が出るほどの羞恥に襲われる。

「ばれて、たんだ……」
「もちろん」
「これまでのぼくの葛藤って、いったい……」
「ほんとにね。素直になればよかったのに」
「うっ……!」

 もはや、言い逃れはできなかった。
 ここぞとばかりに、ふゆもたたみかけてくる。

「ね、紫陽さま。あなたの口から、本音が聞きたいわ」

 にこにこと、ふゆがほほ笑んでいる。
 しわくちゃな笑顔がかわいらしいと、紫陽は思う。
 だってそれは、彼女がいっぱい笑ってきたあかしだから。

「……好きだよ。明るくてよく笑うきみが、ぼくは大好きだ」

 不思議なものだ。
 あれだけこらえていたのに、ひとたび言葉にしてしまったら止まらなくなる。

「かわいくてしょうがなかった。離れたくなかった。帰したくなかった。さらってお嫁さんにしてやろうかって、何度思ったことか。いや、いまも思ってる……だって」

 ぐっとくちびるを噛みしめた直後。
 紫陽は、かたくなに隠していた本心をさらけだす。

「だって──愛しているから」

 笑みを浮かべたふゆのまなじりに、涙がにじむ。
 ふゆは歓喜していた。
 その言葉を、待ちわびていた。

「私もよ。だから、あなたの好きにしてね。紫陽さま……私だけの、神さま」
「あぁ、ふゆ……っ!」

 紫陽は両腕を伸ばし、ふゆを抱きすくめる。

「うれしい……ぼくのこと、信じてくれてありがとう」

 はらはら、ひらひら。
 いじらしく染まった桜の花びらが、乱れ舞う。
 そこはもう、ふたりだけの世界。

「ずっといっしょにいよう。もう離さないから。愛してるよ、ふゆっ……!」

 ながく降り続いていた雨は、いつの間にかやんでいた。