十五歳の誕生日をひと月後に控えた日。
紫陽のもとへやってきたふゆが、淡々と言い放った。
「私、輿入れが決まったの」
『…………え?』
ひさしぶりだなんて、他愛ない言葉を交わせる雰囲気ではなく。
固まる紫陽にかまわず、ふゆは言葉を続ける。
「私の霊力は質がいいから、優秀な霊力者のこどもを生むのに最適なんですって」
近年、神を視ることのできないこどもが急増している。
ふゆが小学生のころにうそつき呼ばわりされたのも、そのためだ。
あやかしに悩まされるこの島において、それは死活問題。
高い霊力を持つこどもを生むために、ふゆは覡の家系へ嫁ぐことが決まった。
「よく知りもしないひとのお嫁さんになるわ」
『…………』
「私がどうしてここに来たのか、わかるでしょ? まさかこの期に及んで、ごまかすつもりじゃないわよね?」
ふゆの問いかけに、紫陽は答えることができなかった。
ふだんはうまく取りつくろうのに、笑顔が作れない。
「ねぇ、紫陽さま」
『……だめだよ』
「紫陽さま、私」
『それ以上は、だめだ』
紫陽はかたくなに拒む。
けれども、ふゆは大きな一歩でぐっと距離を縮め、紫陽の袖をつかむ。
「私を隠して、紫陽さま」
だめだと言ったのに。
あぁ──言霊にしてしまった。
「ほかのだれかのお嫁さんになるなんて嫌。おねがい、私を連れていって……!」
『っ…………』
いまさら聞こえないふりなんて、できない。
『きっと後悔する』
「しないわ! だって私が想っていたのは、あなただけだもの」
『……わかったよ。おいで、ふゆ』
紫陽はつとめて平静をよそおいながら、手をさしのべる。
「ほんとう? うれしいわ! これからずっといっしょね、約束! 好きよ、紫陽さま……大好き!」
ふゆは大喜びで、紫陽の胸へ飛び込んだ。
少女の華奢なからだを淡色の袖でつつみ込みながら、紫陽はそっとまぶたを閉じる。
(桜の栄華は、刹那の記憶。……この幸福も、ひとときの夢)
──彼女と結ばれたい。
可笑しなことだ。
あれほど渇望していたことが現実となったのに、紫陽自身がそれを受け入れることに躊躇していた。
(どうせ夢なら、すこしだけ……)
ほんのすこしだけ。
だれかに言い訳をしながら、紫陽は抱きしめたふゆに、そっとくちびるをかさねる。
そうして中途半端に欲張ったから、ばちが当たったのだ。
まさか……あんなことになるなんて。
紫陽のもとへやってきたふゆが、淡々と言い放った。
「私、輿入れが決まったの」
『…………え?』
ひさしぶりだなんて、他愛ない言葉を交わせる雰囲気ではなく。
固まる紫陽にかまわず、ふゆは言葉を続ける。
「私の霊力は質がいいから、優秀な霊力者のこどもを生むのに最適なんですって」
近年、神を視ることのできないこどもが急増している。
ふゆが小学生のころにうそつき呼ばわりされたのも、そのためだ。
あやかしに悩まされるこの島において、それは死活問題。
高い霊力を持つこどもを生むために、ふゆは覡の家系へ嫁ぐことが決まった。
「よく知りもしないひとのお嫁さんになるわ」
『…………』
「私がどうしてここに来たのか、わかるでしょ? まさかこの期に及んで、ごまかすつもりじゃないわよね?」
ふゆの問いかけに、紫陽は答えることができなかった。
ふだんはうまく取りつくろうのに、笑顔が作れない。
「ねぇ、紫陽さま」
『……だめだよ』
「紫陽さま、私」
『それ以上は、だめだ』
紫陽はかたくなに拒む。
けれども、ふゆは大きな一歩でぐっと距離を縮め、紫陽の袖をつかむ。
「私を隠して、紫陽さま」
だめだと言ったのに。
あぁ──言霊にしてしまった。
「ほかのだれかのお嫁さんになるなんて嫌。おねがい、私を連れていって……!」
『っ…………』
いまさら聞こえないふりなんて、できない。
『きっと後悔する』
「しないわ! だって私が想っていたのは、あなただけだもの」
『……わかったよ。おいで、ふゆ』
紫陽はつとめて平静をよそおいながら、手をさしのべる。
「ほんとう? うれしいわ! これからずっといっしょね、約束! 好きよ、紫陽さま……大好き!」
ふゆは大喜びで、紫陽の胸へ飛び込んだ。
少女の華奢なからだを淡色の袖でつつみ込みながら、紫陽はそっとまぶたを閉じる。
(桜の栄華は、刹那の記憶。……この幸福も、ひとときの夢)
──彼女と結ばれたい。
可笑しなことだ。
あれほど渇望していたことが現実となったのに、紫陽自身がそれを受け入れることに躊躇していた。
(どうせ夢なら、すこしだけ……)
ほんのすこしだけ。
だれかに言い訳をしながら、紫陽は抱きしめたふゆに、そっとくちびるをかさねる。
そうして中途半端に欲張ったから、ばちが当たったのだ。
まさか……あんなことになるなんて。



