「御刀さま? この島でお祀りしてる刀の神さまってやつ? あっはは! 『そういう役』ね! お嬢ちゃん、演技が上手ね。将来大女優になれるわよ!」
しかしながら、ゆみに鼓御前の言葉はなにひとつひびいていなかった。
それどころか、ばかばかしいと笑い飛ばす始末。
「ゆみさん! 御刀さまに対してなんというご無礼を!」
「やだ、ふゆさんまで本気になっちゃって。そういうのサムいわー」
わざとらしく二の腕をさするゆみ。
そして、苛立ちをかくしもせずに舌打ちをする。
「はいはい。わざわざ話し合いに来た私が馬鹿だったわ。どいつもこいつも……最初から、こうすればよかったのよ!」
突然バッグに手を突っ込んだゆみが、ふゆめがけてなにかをふりかぶる。
「っ!? ふゆおばあちゃま!」
「いけません、きみはここに。葵葉!」
「仕方ねぇな!」
駆けだそうとする鼓御前を、千菊が制する。
と同時に、葵葉がふゆのもとへ駆け寄る。
ばしゃっ!
ふゆを背にかばった葵葉の顔面に、冷たい液体がぶちまけられた。
ぱたぱた……としずくのしたたる前髪を掻きあげ、葵葉は顔をしかめる。
「おいあんた、これ以上俺を水もしたたるいい男にしてどうする。……うぇっ、なんかこれヌメヌメするし、しょっぱ……海水か?」
磯の香りが顔面にまとわりついている。
ぐしぐしと袖で水気をぬぐう葵葉に、ゆみはフンと鼻を鳴らした。
「えぇそうよ。わざわざ汲んできてあげたの。植物に水やりはだいじですからね!」
言うや否や、ゆみは手にしたペットボトルの海水を、桜の木に向かってぶちまける。
その衝撃的な光景に、鼓御前はあぜんとした。
「なにをしているのですか!」
「私に指図しないで! こんな不吉なモノがあるから、私まで不幸になるのよ! なんで私が婚約破棄されなきゃいけないの!?」
ゆみは発狂していた。
「こんなモノッ、こんなモノッ!」と、なにかに取り憑かれたように海水をぶちまけている。
大量の海水を吸い込んだら、根腐れを起こして、桜の木が枯れてしまう。
「もうやめて! この桜を傷つけないで!」
ふゆの悲鳴がひびきわたる。
「うるさいッ! こんなモノ、枯れてしまえ……消えてしまえ!」
怒り狂ったゆみが、空になったペットボトルをにぎりしめる。
そして桜の木をかばうように両手をひろげるふゆめがけ、ペットボトルをふり下ろそうとした、次の瞬間。
──ヒュオウ!
「きゃあっ!?」
高い悲鳴をあげて、ゆみが尻もちをつく。
突風にあおられたのだ。
「……あれは」
鼓御前は紫水晶の瞳を見ひらく。
先ほどまで、そこになかった存在──淡色の着物をまとった青年のすがたを認めたために。
青年はふゆの肩を抱いている。
そして青と紫がにじむ瞳で、ゆみを睨みつけた。
『……愚かな人間だ』
ぽつりとこぼれた青年の声音は、降りそそぐ雨のように冷えきっていて。
シュウウ……と、黒い煙のようなものが青年にまとわりついた直後。
『──彼女を傷つけたこと、地獄で詫びろ』
いけない、と手をのばそうとした鼓御前の視界が、ぐにゃりとゆがんだ。
しかしながら、ゆみに鼓御前の言葉はなにひとつひびいていなかった。
それどころか、ばかばかしいと笑い飛ばす始末。
「ゆみさん! 御刀さまに対してなんというご無礼を!」
「やだ、ふゆさんまで本気になっちゃって。そういうのサムいわー」
わざとらしく二の腕をさするゆみ。
そして、苛立ちをかくしもせずに舌打ちをする。
「はいはい。わざわざ話し合いに来た私が馬鹿だったわ。どいつもこいつも……最初から、こうすればよかったのよ!」
突然バッグに手を突っ込んだゆみが、ふゆめがけてなにかをふりかぶる。
「っ!? ふゆおばあちゃま!」
「いけません、きみはここに。葵葉!」
「仕方ねぇな!」
駆けだそうとする鼓御前を、千菊が制する。
と同時に、葵葉がふゆのもとへ駆け寄る。
ばしゃっ!
ふゆを背にかばった葵葉の顔面に、冷たい液体がぶちまけられた。
ぱたぱた……としずくのしたたる前髪を掻きあげ、葵葉は顔をしかめる。
「おいあんた、これ以上俺を水もしたたるいい男にしてどうする。……うぇっ、なんかこれヌメヌメするし、しょっぱ……海水か?」
磯の香りが顔面にまとわりついている。
ぐしぐしと袖で水気をぬぐう葵葉に、ゆみはフンと鼻を鳴らした。
「えぇそうよ。わざわざ汲んできてあげたの。植物に水やりはだいじですからね!」
言うや否や、ゆみは手にしたペットボトルの海水を、桜の木に向かってぶちまける。
その衝撃的な光景に、鼓御前はあぜんとした。
「なにをしているのですか!」
「私に指図しないで! こんな不吉なモノがあるから、私まで不幸になるのよ! なんで私が婚約破棄されなきゃいけないの!?」
ゆみは発狂していた。
「こんなモノッ、こんなモノッ!」と、なにかに取り憑かれたように海水をぶちまけている。
大量の海水を吸い込んだら、根腐れを起こして、桜の木が枯れてしまう。
「もうやめて! この桜を傷つけないで!」
ふゆの悲鳴がひびきわたる。
「うるさいッ! こんなモノ、枯れてしまえ……消えてしまえ!」
怒り狂ったゆみが、空になったペットボトルをにぎりしめる。
そして桜の木をかばうように両手をひろげるふゆめがけ、ペットボトルをふり下ろそうとした、次の瞬間。
──ヒュオウ!
「きゃあっ!?」
高い悲鳴をあげて、ゆみが尻もちをつく。
突風にあおられたのだ。
「……あれは」
鼓御前は紫水晶の瞳を見ひらく。
先ほどまで、そこになかった存在──淡色の着物をまとった青年のすがたを認めたために。
青年はふゆの肩を抱いている。
そして青と紫がにじむ瞳で、ゆみを睨みつけた。
『……愚かな人間だ』
ぽつりとこぼれた青年の声音は、降りそそぐ雨のように冷えきっていて。
シュウウ……と、黒い煙のようなものが青年にまとわりついた直後。
『──彼女を傷つけたこと、地獄で詫びろ』
いけない、と手をのばそうとした鼓御前の視界が、ぐにゃりとゆがんだ。



