御刀さまと花婿たち

 鼓御前は付喪神だ。ひとびとに愛されたからこそ、付喪神となった。
 だから鼓御前も、人の子は無条件で愛すべき存在だと考えていた。
 このときまでは。

「こんな雨降りの日に、優雅にお花見? けっこうなことね!」
「ゆみさん……病院で安静にとのお話があったでしょう」
「冗談じゃないわ、こんな不気味な島で入院なんて。ただでさえ長居したくないのに!」

 突然押しかけた見知らぬ女が、金切り声をあげながらふゆへ詰め寄る。
 彼女をひと目見て、鼓御前は思わず後ずさった。

「あのひとは、嫌です……」
「……つづ」

 すぐに異変を察した千菊が、鼓御前を背にかばう。

「だれだよあいつ。キーキーうるさいな」
「つい先日行方不明になった、ふゆさんの親戚の方、妹さんの孫娘さんですね。事件後間もないですから、『典薬寮』所轄の医療機関で経過観察をおねがいしていたはずですが」

 すらすらと説明をする千菊だが、いつもより淡々とした声音だ。
 その理由は、鼓御前がいやいやとゆみに拒絶を示しているから。

 三十代前後だろうか。ゆみはまなじりがつり上がったきつい顔立ちに違わず、短気なようだった。ゴテゴテとした宝石のネックレスやらブレスレットやらをこれでもかと身につけ、動くたびにチェーンがジャラジャラと音を立てる。

「趣味が悪いっていう以前の問題なんだよな。大丈夫か? 姉さま」

 葵葉も、鼓御前の異変のわけを理解していた。
 顔色の悪い姉を気遣う。

「物が泣いている……あのひとは、物をだいじにしないひとです」

 アクセサリーだけではない。
 ハイヒールもバッグもブランド品。
 よい品物であるはずなのに、ゆみが身につけたすべての物から負の気がただよう。
 ぞんざいなあつかわれ方をした物に、こうした邪気がやどりやすい。
 鼓御前は、それを敏感に感じとったのだ。

「今日という今日は結着をつけるわよ。さぁ、うなずいて。この島を出るって!」
「ゆみさん、いまはお客さまがいらしてるの。その話はまた──」
「そうやってはぐらかすのは、やめてちょうだい!」

 ふゆがなだめようが、ゆみはまったく耳を貸さない。
 一方的な主張は、しだいに白熱してゆく。

「だいたいね、こんなボロいお店を続けたってなんの得もないでしょ。それになに? この気色悪い桜の木は。桜のくせに紫陽花みたくダラダラとこの時期まで咲いてるなんて」
「……ゆみさん」
「知らないだろうから教えてあげるわよ。風水で紫陽花はね、恋愛運を吸っちゃうの。未婚女性がいる家の庭に植えると、ご縁がなくなるのよ。だれかさんがお嫁にいけなかったのもそのせいよねぇ!」
「それは、あんまりではありませんか?」

 ぷるぷると、ふゆが震えている。
 それが見ていられなくて、気づいたら、鼓御前は千菊のうしろから一歩前に出ていた。
 すぐさま、ゆみの鋭い視線に突き刺される。
 ひるみそうになるところをぐっとふんばり、鼓御前は言葉を続ける。

「『はなや』さんも、こちらの桜の木も、ふゆおばあちゃまの想い出がつまったたいせつな存在です」

 桜あんのおはぎをひとくち食べて、その美味しさに感動した。
 紫陽花のような不思議な桜も、この雨のなか、凛と咲きほこっている美しさに見惚れた。
 それはふゆが真心をこめて手作りをしたり、何十年も手入れをしたからだ。

「あなたの言葉は、聞くに耐えない(いや)しいものです。あなたは物をだいじにできない、心のまずしいひと。ふゆおばあちゃまを傷つけたこと、謝罪なさってください」
「御刀さま……」

 毅然とした態度で告げる鼓御前に、ふゆが声を震わせる。