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赤いポストの表面に、べっとりとこびりついた飛沫がある。
莇に続き鼓御前、葵葉が相次いで上空から着地すれば、ひとけのない駐車場に凄惨な光景がひろがった。
赤黒い飛沫でぬりつぶされたアスファルトの中心に、黒いもやをまとった鳥のようなモノがいる。
「猫をむさぼり喰う雀、か。どこかのホラーシーンの冒頭にありそうだな。小説の一篇でも書けそうだ」
むろん、猫より大きなそのずんぐりむっくりが雀のかたちをした異形であることくらい、葵葉も理解しているだろう。
「あれが〝慰〟ですか。なんとおぞましい」
「穢れがあつまってうまれた不浄のモノ。野放しにすれば、人も動物も関係なく生あるものを襲います」
「やはり、見すごすわけにはまいりませんね」
「的はでかいな。とりあえず、ぶっ飛ばすか」
「お待ちを。ここはわたくしが」
葵葉を制し、歩みでたのは莇だ。
〝慰〟は息絶えた猫の腹を貪るのに夢中で、こちらに気づいてはいない。
莇は格好の機会を見逃さない。
腰帯に差した短刀を目にも止まらぬはやさで抜くなり、投げ放つ。
「はっ──『縛』!」
短刀は〝慰〟の脳天に命中。
さらにすばやく指を組み、印を結んだ莇が言霊を発すると、閃光が走る。
短刀の柄から伸びた光の縄が、またたく間に〝慰〟をがんじからめにする。
「ヒギィッ!」と悲鳴を上げた巨大な雀は、ころりと後方へ転がった。
「ただ不浄を祓うだけでは、〝慰〟は消滅しません。まず動きを止め、穢れの『核』を──」
印を結んだまま莇が砂利を踏みしめた、そのときだ。
「ギェエエエッ!」
およそ雀とは思えぬ、金属を引っかいたかのごとき叫びがこだまする。
硝子の瓶が割れるような音とともに、〝慰〟を拘束していた光がはじけ飛ぶ。
「なっ──!」
驚愕に目を瞠る莇。
その体躯が、まばたきのうちにアスファルトへ叩きつけられる。
〝慰〟の翼が巻き起こした突風の直撃を食らったのだ。
「ぐぁッ!」
「莇さん!」
とっさに受け身を取る莇。
しかし風に揉まれ、後頭部をしたたかに打ちつけてしまう。
脳震盪にみまわれているのか、苦悶の表情のまま、立ち上がることが叶わない。
「ギィッ! シャアアアッ!!」
莇のこめかみをつたう血のにおいに反応したのだろう。
紅にまみれたくちばしを開け、せわしなく翼をばたつかせる〝慰〟の目玉は、左右でちがう方向を向いている。
まさに、怪物。


