冬休みに入った。
学校がなくなると、時間だけが増えた。増えた時間を、私は全部、考えることに使った。他にできることが、思いつかなかったからだ。
ノートは、今や三冊目になっていた。「私が変えた明日」のページ、「変えた明日のいいほうの話」のページ、歩くんのページ、ゆず姉と堀田さんのページ。そして新しく増えた、あの半年のニアミスのページ。書けば書くほど、全体の輪郭が見えてきそうで、でも肝心の中心が、靄の中に隠れたままだった。
靄の中心にある問いは、ひとつだった。
なぜ、空白は来たのか。
ゆず姉のことも、堀田さんのことも、歩くんのことも、今の私には、ある程度説明がつく。助けた深さの分だけ、後から何かが来る。まだ法則と呼べるほど確かではないけれど、少なくとも否定できない何かが、そこにはある。でも、空白の説明が、まだできていない。
私の力が、なぜ、あの夜に消えたのか。
消えた理由が分からなければ、歩くんに何が起きているかの全体も、見えない。ゆず姉と堀田さんと歩くんの不運が、私の力と関係しているとして、その力が消えたことは、その不運に、どう関係しているのか。消えることで、何かが止まったのか。それとも、消えてもなお、積み上がったものの返済は続いているのか。
冬休みの三日目、亜矢から連絡が来た。
「暇? 初詣、行かない? お参りついでに、歩も呼んでいい?」
断る理由がなかった。あった。でも、断りたくなかった。
* * *
元日の午前中、最寄りの神社に三人で集まった。歩くんは、参道の入口で待っていた。マフラーを巻いて、コートのポケットに手を突っ込んで、スマホを見ていた。私が近づくと、顔を上げた。
「あけおめ」
「……あけましておめでとう」
「かたっ」と亜矢が笑った。歩くんも笑った。私も、少しだけ笑えた。
参道を三人で歩いた。人が多かった。屋台が並んでいた。たい焼きの屋台の前を通るとき、私は少しだけ足が遅くなった。歩くんは気づかなかった。亜矢だけが、横目で私を見た。
「寒いね」と歩くんが言った。
「一月だから」と亜矢が返した。
「当たり前のことを言うなよ」
「当たり前のことしか言えないくらい寒い、って言ってる」
「論理的だな」
二人が笑った。私はその横を歩きながら、この会話を、昨日の夜に知らなかったことを、静かに確かめていた。「寒いね」も、「一月だから」も、「論理的だな」も、全部、今この瞬間に初めて聞いた。それが、今の私の普通だった。
本殿の前で並んで、順番を待った。
歩くんは、前の人たちを眺めながら、特に何も言わなかった。亜矢はコートのポケットからカイロを取り出して、私に押しつけた。「はい、体弱そうだから」と言われた。体は弱くない、と言おうとして、手がかじかんでいたので黙って受け取った。
順番が来た。
大きな鈴を鳴らして、お賽銭を入れて、手を合わせた。
歩くんの横顔が、視界の端にあった。目を閉じていた。何を願っているのか、分からなかった。分からないまま、隣に立っていた。視えていた頃なら、彼が毎年初詣で何を祈るかを、前の晩に知っていた。今は、知らない。この人の祈りは、この人のものだった。
私は目を閉じた。
今年、欲しいものを考えた。答えはすぐに出た。
歩くんが、無事でいますように。
それだけだった。受験でも、成績でも、力が戻ることでもなかった。去年の私には、願いが必要なかった。今年の私には、願いたいことがあった。
手を離して、目を開けた。
歩くんが、ちょうど手を離すところだった。目が合った。
「何願った?」と彼が聞いた。
「ひみつ」と私は言った。
「だろうな」と彼は笑った。
参拝を終えて、三人で参道を戻った。屋台を眺めながら、亜矢がいろいろ買いたがった。
歩くんが「全部食えるの」と言い、亜矢が「食えるよ」と言い、結局二人で焼きとうもろこしを一本ずつ、亜矢はいか焼きとりんご飴まで買った。私は甘酒を一杯もらった。
「甘酒って、飲んだことなかった」
「え、本当に?」
と亜矢が言った。
「アルコール入ってると思ってたから、頼んだことなくて」
「米麹のやつはノンアルだよ」
と歩くんが言った。
「それ、飲んだことある。甘くておいしいやつじゃん」
「……知らなかった」
「そっか」
と彼は笑った。
「飲んでみたら?」
「なんで今日頼んだの」
と歩くんが聞いた。
「……なんとなく」
「なんとなく、か」
彼は少し笑った。
「望月の『なんとなく』、最近増えたよな」
「そう?」
「うん。前は『なんとなく』って言わなかった気がする。なんか、全部分かってました、みたいな感じで」
亜矢が「それ、あたしも思ってた」と言った。
「……そんなだった?」
「そんなだったよ」
と二人が、ほぼ同時に言った。
三人で笑った。参道の出口が、もう見えていた。甘酒は、思ったより甘くて、思ったより体が温まった。飲んだことがなかったから、知らなかった。知らないものを、知った。
それだけのことが、今日は、少し嬉しかった。
神社の鳥居をくぐるとき、歩くんが立ち止まって、振り返った。
「今年もよろしく」
亜矢に言ったのか、私に言ったのか、二人に言ったのか、分からない言い方だった。
「よろしく」と亜矢が返した。
私も、「よろしく」と言った。
それだけだった。それだけの言葉が、冬の空気の中で、少しだけ白く見えた。
* * *
三が日が明けて、私はまた、ノートと向き合う時間に戻った。
冬休みの後半、私はひとつの考えに、少しずつ近づいていた。
あの半年、ニアミスが続いた。自転車、傘、資材、照明カバー。四回、何かが私のそばで、ぎりぎりを通り過ぎた。そして秋、力が消えた。ニアミスが、止まった。
ずっと、この順番を、私は「力が消えたからニアミスが止まった」と読んでいた。でも、別の読み方も、できるかもしれない。
ニアミスが止まる必要があったから、力が消えた。
何かが、力を消した。消すことで、何かを止めた。
この読み方をするなら、力を消したのは、偶然じゃない。何かが、意図を持って、消したことになる。その何かが何なのか、私には分からない。でも、もし本当にそうなら、それは私に対して、こう言っていることになる。
もうやめろ、と。
もうやめろ。これ以上、変えるな。変えるたびに、誰かが払う。もう払わせるな。だから、目を潰した。視えなくすることで、変えさせないようにした。
視えなくなったことは、罰じゃない。
停戦、だ。
その言葉が、頭の中に浮かんだとき、私は少しのあいだ、その形を確かめた。
停戦。
戦いをやめること。どちらかが負けたのではなく、続けることをやめた、ということ。停戦は、平和じゃない。でも、続くよりは、いい。
この読み方が正しければ、視えなくなってから積み上がりは止まっているはずだ。ゆず姉の事故は、秋の空白と同じ頃だった。堀田さんの倒産は、去年。空白の前に積み上がっていたものが、空白の前後に形になった。でも、空白後に新しく積み上がったものは、まだない、はずだ。
歩くんの「死にかけてばっかり」も、空白前の積み上がりが今、形になっているとしたら。それはいつか、底をつく。底をついたとき、彼は無事になる。
そうなら、私がすべきことは、何もしないことだ。視えない今のまま、何も変えようとしないまま、ただ待つ。そうすれば、底はいつか来る。
でも。
底が来るまでの間に、彼が本当に死にかけたら。今、際どくなっていると言っていた、あの「ぎりぎり」が、いつかぎりぎりを越えてしまったら。
私は、何もしないでいられるのか。
視えなければ、変えられない。視えないまま助けるのは、ただの偶然の積み重ねで、世界中の誰もがやっていることだ。だから、今の私がそこにいて、手を伸ばしても、それは積み上がらない、はずだ。
でも、それが積み上がらないなら、なぜ、視えていた頃の私の「助け」だけが積み上がったのか。視えていたから、変えたから、だ。
答えは、最初からそこにあった。
積み上がるのは、視て、変えたことだけだ。視えないまま隣にいることは、罪じゃない。
そう気づいた瞬間、胸の中で、何かが少しだけ、緩んだ気がした。
でも、すぐに別の問いが来た。視えなければ積み上がらない。
では、もし、もう一度視えるようになったら。もし、力が戻ったら。そのとき私は、また変えてしまうのか。介入すれば、積み上がる。しなければ、彼が死ぬかもしれない。
考えているうちに、もうひとつの考えが、静かに浮かんだ。
私が変えた明日を、何かが修正しようとしているとしたら。
ゆず姉の骨折。堀田さんの倒産。歩くんの、だんだん際どくなるぎりぎり。あれは全部、本来あるべき形に戻ろうとする、世界の引力みたいなものなのかもしれない。そして、あのニアミスの半年は――私が変え続けたことへの、反動の予兆だったのかもしれない。
もしそうなら、視えなくなったことも、同じ力の働きだ。視えなければ変えられない。変えなければ、修正は要らない。だから、私の目を潰した。
世界は、私が変えるたびに、元に戻ろうとしている。
そこまで考えて、私は自分の仮説が怖くなった。証明する方法は、何もない。でも、否定もできない。
どちらにも、答えを出せないまま、冬休みは終わった。
始業式の朝、私は制服に着替えながら、鏡の中の自分を見た。三ヶ月前と同じ顔で、同じ制服を着て、同じ学校に行く。でも、三ヶ月前の私と、今の私は、何もかもが違った。
明日が視えていた私は、消えた。
勉強のできる私は、崩れた。
何も知らないふりをしていた私は、知ってしまった。
残ったのは、何だろう。
靴を履きながら、考えた。答えは、すぐには出なかった。でも、玄関を出て、冬の空気を吸ったとき、ひとつだけ分かることがあった。
今日、学校に行けば、歩くんに会える。
会えば、望月、と呼ばれる。
それだけが、今の私に、今日学校に行く理由を、ちゃんとくれていた。
学校がなくなると、時間だけが増えた。増えた時間を、私は全部、考えることに使った。他にできることが、思いつかなかったからだ。
ノートは、今や三冊目になっていた。「私が変えた明日」のページ、「変えた明日のいいほうの話」のページ、歩くんのページ、ゆず姉と堀田さんのページ。そして新しく増えた、あの半年のニアミスのページ。書けば書くほど、全体の輪郭が見えてきそうで、でも肝心の中心が、靄の中に隠れたままだった。
靄の中心にある問いは、ひとつだった。
なぜ、空白は来たのか。
ゆず姉のことも、堀田さんのことも、歩くんのことも、今の私には、ある程度説明がつく。助けた深さの分だけ、後から何かが来る。まだ法則と呼べるほど確かではないけれど、少なくとも否定できない何かが、そこにはある。でも、空白の説明が、まだできていない。
私の力が、なぜ、あの夜に消えたのか。
消えた理由が分からなければ、歩くんに何が起きているかの全体も、見えない。ゆず姉と堀田さんと歩くんの不運が、私の力と関係しているとして、その力が消えたことは、その不運に、どう関係しているのか。消えることで、何かが止まったのか。それとも、消えてもなお、積み上がったものの返済は続いているのか。
冬休みの三日目、亜矢から連絡が来た。
「暇? 初詣、行かない? お参りついでに、歩も呼んでいい?」
断る理由がなかった。あった。でも、断りたくなかった。
* * *
元日の午前中、最寄りの神社に三人で集まった。歩くんは、参道の入口で待っていた。マフラーを巻いて、コートのポケットに手を突っ込んで、スマホを見ていた。私が近づくと、顔を上げた。
「あけおめ」
「……あけましておめでとう」
「かたっ」と亜矢が笑った。歩くんも笑った。私も、少しだけ笑えた。
参道を三人で歩いた。人が多かった。屋台が並んでいた。たい焼きの屋台の前を通るとき、私は少しだけ足が遅くなった。歩くんは気づかなかった。亜矢だけが、横目で私を見た。
「寒いね」と歩くんが言った。
「一月だから」と亜矢が返した。
「当たり前のことを言うなよ」
「当たり前のことしか言えないくらい寒い、って言ってる」
「論理的だな」
二人が笑った。私はその横を歩きながら、この会話を、昨日の夜に知らなかったことを、静かに確かめていた。「寒いね」も、「一月だから」も、「論理的だな」も、全部、今この瞬間に初めて聞いた。それが、今の私の普通だった。
本殿の前で並んで、順番を待った。
歩くんは、前の人たちを眺めながら、特に何も言わなかった。亜矢はコートのポケットからカイロを取り出して、私に押しつけた。「はい、体弱そうだから」と言われた。体は弱くない、と言おうとして、手がかじかんでいたので黙って受け取った。
順番が来た。
大きな鈴を鳴らして、お賽銭を入れて、手を合わせた。
歩くんの横顔が、視界の端にあった。目を閉じていた。何を願っているのか、分からなかった。分からないまま、隣に立っていた。視えていた頃なら、彼が毎年初詣で何を祈るかを、前の晩に知っていた。今は、知らない。この人の祈りは、この人のものだった。
私は目を閉じた。
今年、欲しいものを考えた。答えはすぐに出た。
歩くんが、無事でいますように。
それだけだった。受験でも、成績でも、力が戻ることでもなかった。去年の私には、願いが必要なかった。今年の私には、願いたいことがあった。
手を離して、目を開けた。
歩くんが、ちょうど手を離すところだった。目が合った。
「何願った?」と彼が聞いた。
「ひみつ」と私は言った。
「だろうな」と彼は笑った。
参拝を終えて、三人で参道を戻った。屋台を眺めながら、亜矢がいろいろ買いたがった。
歩くんが「全部食えるの」と言い、亜矢が「食えるよ」と言い、結局二人で焼きとうもろこしを一本ずつ、亜矢はいか焼きとりんご飴まで買った。私は甘酒を一杯もらった。
「甘酒って、飲んだことなかった」
「え、本当に?」
と亜矢が言った。
「アルコール入ってると思ってたから、頼んだことなくて」
「米麹のやつはノンアルだよ」
と歩くんが言った。
「それ、飲んだことある。甘くておいしいやつじゃん」
「……知らなかった」
「そっか」
と彼は笑った。
「飲んでみたら?」
「なんで今日頼んだの」
と歩くんが聞いた。
「……なんとなく」
「なんとなく、か」
彼は少し笑った。
「望月の『なんとなく』、最近増えたよな」
「そう?」
「うん。前は『なんとなく』って言わなかった気がする。なんか、全部分かってました、みたいな感じで」
亜矢が「それ、あたしも思ってた」と言った。
「……そんなだった?」
「そんなだったよ」
と二人が、ほぼ同時に言った。
三人で笑った。参道の出口が、もう見えていた。甘酒は、思ったより甘くて、思ったより体が温まった。飲んだことがなかったから、知らなかった。知らないものを、知った。
それだけのことが、今日は、少し嬉しかった。
神社の鳥居をくぐるとき、歩くんが立ち止まって、振り返った。
「今年もよろしく」
亜矢に言ったのか、私に言ったのか、二人に言ったのか、分からない言い方だった。
「よろしく」と亜矢が返した。
私も、「よろしく」と言った。
それだけだった。それだけの言葉が、冬の空気の中で、少しだけ白く見えた。
* * *
三が日が明けて、私はまた、ノートと向き合う時間に戻った。
冬休みの後半、私はひとつの考えに、少しずつ近づいていた。
あの半年、ニアミスが続いた。自転車、傘、資材、照明カバー。四回、何かが私のそばで、ぎりぎりを通り過ぎた。そして秋、力が消えた。ニアミスが、止まった。
ずっと、この順番を、私は「力が消えたからニアミスが止まった」と読んでいた。でも、別の読み方も、できるかもしれない。
ニアミスが止まる必要があったから、力が消えた。
何かが、力を消した。消すことで、何かを止めた。
この読み方をするなら、力を消したのは、偶然じゃない。何かが、意図を持って、消したことになる。その何かが何なのか、私には分からない。でも、もし本当にそうなら、それは私に対して、こう言っていることになる。
もうやめろ、と。
もうやめろ。これ以上、変えるな。変えるたびに、誰かが払う。もう払わせるな。だから、目を潰した。視えなくすることで、変えさせないようにした。
視えなくなったことは、罰じゃない。
停戦、だ。
その言葉が、頭の中に浮かんだとき、私は少しのあいだ、その形を確かめた。
停戦。
戦いをやめること。どちらかが負けたのではなく、続けることをやめた、ということ。停戦は、平和じゃない。でも、続くよりは、いい。
この読み方が正しければ、視えなくなってから積み上がりは止まっているはずだ。ゆず姉の事故は、秋の空白と同じ頃だった。堀田さんの倒産は、去年。空白の前に積み上がっていたものが、空白の前後に形になった。でも、空白後に新しく積み上がったものは、まだない、はずだ。
歩くんの「死にかけてばっかり」も、空白前の積み上がりが今、形になっているとしたら。それはいつか、底をつく。底をついたとき、彼は無事になる。
そうなら、私がすべきことは、何もしないことだ。視えない今のまま、何も変えようとしないまま、ただ待つ。そうすれば、底はいつか来る。
でも。
底が来るまでの間に、彼が本当に死にかけたら。今、際どくなっていると言っていた、あの「ぎりぎり」が、いつかぎりぎりを越えてしまったら。
私は、何もしないでいられるのか。
視えなければ、変えられない。視えないまま助けるのは、ただの偶然の積み重ねで、世界中の誰もがやっていることだ。だから、今の私がそこにいて、手を伸ばしても、それは積み上がらない、はずだ。
でも、それが積み上がらないなら、なぜ、視えていた頃の私の「助け」だけが積み上がったのか。視えていたから、変えたから、だ。
答えは、最初からそこにあった。
積み上がるのは、視て、変えたことだけだ。視えないまま隣にいることは、罪じゃない。
そう気づいた瞬間、胸の中で、何かが少しだけ、緩んだ気がした。
でも、すぐに別の問いが来た。視えなければ積み上がらない。
では、もし、もう一度視えるようになったら。もし、力が戻ったら。そのとき私は、また変えてしまうのか。介入すれば、積み上がる。しなければ、彼が死ぬかもしれない。
考えているうちに、もうひとつの考えが、静かに浮かんだ。
私が変えた明日を、何かが修正しようとしているとしたら。
ゆず姉の骨折。堀田さんの倒産。歩くんの、だんだん際どくなるぎりぎり。あれは全部、本来あるべき形に戻ろうとする、世界の引力みたいなものなのかもしれない。そして、あのニアミスの半年は――私が変え続けたことへの、反動の予兆だったのかもしれない。
もしそうなら、視えなくなったことも、同じ力の働きだ。視えなければ変えられない。変えなければ、修正は要らない。だから、私の目を潰した。
世界は、私が変えるたびに、元に戻ろうとしている。
そこまで考えて、私は自分の仮説が怖くなった。証明する方法は、何もない。でも、否定もできない。
どちらにも、答えを出せないまま、冬休みは終わった。
始業式の朝、私は制服に着替えながら、鏡の中の自分を見た。三ヶ月前と同じ顔で、同じ制服を着て、同じ学校に行く。でも、三ヶ月前の私と、今の私は、何もかもが違った。
明日が視えていた私は、消えた。
勉強のできる私は、崩れた。
何も知らないふりをしていた私は、知ってしまった。
残ったのは、何だろう。
靴を履きながら、考えた。答えは、すぐには出なかった。でも、玄関を出て、冬の空気を吸ったとき、ひとつだけ分かることがあった。
今日、学校に行けば、歩くんに会える。
会えば、望月、と呼ばれる。
それだけが、今の私に、今日学校に行く理由を、ちゃんとくれていた。

