幼馴染はおれのことが好きすぎる

 朝日に焼かれ、眼球が痛い。体全身が寝不足を訴えている。今日は絶対、早く寝よう。大丈夫、片付けるべき課題はすべて片付けた。……そのはずだ。
 インターホンを押す寸前、ガチャリと玄関のドアが開いて、見慣れた姿が現れる。

「……ゆう?」

 色素の薄い瞳が、驚きで丸く開かれた。ひらひらと手を振ると、綾瀬が慌てた様子で駆け寄ってくる。

「おはよう、綾瀬」
「おはよう。こんな早くにどうしたの? ひょっとして熱がある……?」
「ちょっと早起きしただけでそんなこと言う? いいじゃん。今日はなんとなく、綾瀬を迎えに行きたい気分だったの」
「そのために早起きを……?」

 というのは、ちょっと違う。けど、説明ができないので、取り急ぎ頷いておく。それを見た綾瀬が、信じられないという顔をした。日頃の行いのせいだ。

 昨日の夜。学校の課題を全部終わらせた俺は、三冊の参考書を机の上に並べ、その内容と格闘した。初めて少女漫画を読んで知ったことだけど、少女漫画においては、一巻目でいきなり告白をする、という展開は珍しいようだ。たしかに少年漫画へ置き換えても、一巻目でラスボスを倒しちゃうなんて物語は滅多にない。ちょっと考えればわかるのに、どうして俺は思い至らなかったんだろう。
 手に入れた三冊中の二冊は、主人公の女の子と、これから結ばれるのであろう男の子、通称"王子様"が知り合って、友達になったくらいで終わってしまった。それでもなんとか、偶然混ざっていた読み切りや、残り一冊の短編集を読み込んで、学び取ったシチュエーションをノートに書き込んでまとめた。
 夕焼けに染まる、放課後の教室。遊園地の観覧車が頂上に達した瞬間。花火大会。海辺。突然の雨に降られた後の軒先。文化祭の後夜祭。なるほど。つまりはこんな感じの場所へ綾瀬を連れていけば良いのか。
 ……意外といけそうかも。
 余裕に溢れながら、ノートを眺め、口元に手を当てる。いまは五月。来月に体育祭。再来月に花火大会や夏祭り。文化祭はもっと先だ。とりあえず、放課後の教室と遊園地から試してみよう。

 待ってろ綾瀬。俺が必ず、告白に最適なシチュエーションを作ってやるからな。

 決意を固めた俺は、とりあえずいつもとは違う行動を起こしてみようと、参考書に登場した王子様を見習って、綾瀬を迎えにきてみた。というのが今だ。ただでさえ夜更けまで参考書を読み込んでいたのに、いつもより早く起きたから、ここへくるまで何度あくびを噛み殺したかわからない。

「……今日は雪が降るかもしれないな」

 ぽつり。綾瀬が呟く。ちょっと失礼だが、やっぱりこれも日頃の行いのせいなので、反撃は綾瀬の腕を軽く小突くに留める。
 本番は、今日の放課後だ。参考書では、そこで告白が繰り広げられていた。だからなんとか誰もいない時間まで残って、綾瀬と二人きりにならないといけない。やる気に満ちて、両手をぐっと握る。「……雪じゃなくて雹かも」様子を見ていた綾瀬が傍でつぶやいたので、今度はきちんと怒っておいた。