幼馴染がおれのことを好きすぎる



 家から近いところへ進学したので、学校までは歩いて二十分ほどだ。綾瀬は、歩道の狭い場所では車道側に寄り、人とすれ違うときは俺の肩を軽く引く。別に、二人の間でそう決めたわけでも、俺が綾瀬に強制しているわけでもない。ただ、気がついたらそうなっていた。今日もそれは変わらず、綾瀬の隣を、黄色い軽自動車がゆっくりと通過する。前に一度、どうしてそんなことをしてくれるのかと聞いたら、ゆうはまっすぐ歩くの苦手そうだから、おれがガードしてあげてるのという言葉が返ってきた。確かに、親からよくフラフラ歩くなと怒られているが、すこし心外である。

「ゆうのクラス、一時間目は英語の授業だよね。課題はやった?」
「うん、やった」
「本当に?」
「本当に。途中まで」
「ゆう、それはやってないって言うんだよ」
「教科書を学校に忘れて、途中までしかできなかったんだ。だから、学校に着いたら残りをやる」
「そうなの? そういうことなら、昨日の夜に連絡くれたら、ゆうの家まで届けに行ったのに」
「気がついたの夜中だし、迷惑かけると思って」
「ゆうのこと、迷惑だなんて思ったことないよ」
「ほんと?」
「ほんと。ゆうのためならなんでもしてあげる」
「……綾瀬は優しいよな。昔から俺の面倒を見てくれて、気にかけてくれて。母さんがもう一人いるみたい」
「おれはゆうのお母さんじゃないよ」

 綾瀬がしっかりと首を振る。学校が近づいて、通学路には同じ制服を着た生徒が増えてきていた。何人かが俺たちを追い越しながら、ちらりとこちらを見る。
 昔はあまり気にならなかったが、高校に入ってから、こうして見られることが増えた気がする。おそらく、綾瀬が目立つせいだろう。背が高くて、顔も整っていて、成績もいい。愛想がないわけではないが、誰にでも積極的に話しかけるタイプでもなくて、付き合う人はしっかり選ぶ。綾瀬はあまり自分のことを話さないから謎が多くて、きっと周囲から見れば、それだから魅力的だった。そんな綾瀬が、毎朝わざわざ別のクラスの俺を家まで迎えに来て、いろいろと世話を焼きながら、一緒に登校している。幼馴染という事情を知らない外野から見れば、なんであいつと? という感じで、少し変なのかもしれない。

「ゆう、信号」

 ぼんやり歩いていると、腕をつかまれ、引き戻される。顔を上げると、目の前の信号は赤に変わっていた。

「うわ、危な」
「本当にね。きちんと前を見てなかったでしょう」
「うん、ごめん。ちょっと考え事してた」
「何を?」
「綾瀬のこと」
「俺?」
「いつもありがとうね、お母さん」
「だから、お母さんじゃないってば」

 信号が青になる。綾瀬は俺の腕をつかんだまま歩き出し、横断歩道を渡り終えるまで離さなかった。そんなことをしなくても、きちんと歩けるのに。