三階の窓から見下ろす先で、優希がこちらに気づいた。
大きく手を振って、それから、昇降口を指さす。先に下で待っている、という意味だろう。綾瀬が手を振り返すと、優希は満足そうに笑って校舎の中へ消えていった。
幼い頃からずっと、優希の隣にいるためにはどうしたらいいかを考えてきた。誰かと比べられることすらないほど、優希にとって当たり前の存在になりたかった。そして今の優希は、自分の意思で綾瀬を好きだと言い、自分の意思で迎えに来てくれる──少なくとも、綾瀬はそう信じていた。
窓ガラスに映る綾瀬の表情が、ゆっくりと綻んだ。
「ほんとうに──ゆうは、おれのことが好きすぎるよね」
それはどう見てもお前の方だろ。
いつもなら胸の内にしまっておく言葉だったが、今日だけは、盤上で三度も心を折られた仕返しがしたくなった。
「結局、全部お前の思い通りになったってことか」
窓辺の綾瀬が、ゆっくりと振り返る。
「何のこと?」
「別に。可哀想な桂木、って思っただけ」
「どうして? ゆうは幸せそうだよ」
「そういうところだよ」
田口は小さくため息をつく。桂木はきっと、自分で綾瀬を選んだつもりでいる。けれど田口には、逃げ道を一つずつ塞がれ、最後にたった一つ残された場所へ、何も知らずに歩いていったようにしか見えなかった。田口から見れば、目の前の男は将棋盤の上だけでなく、人の心まで何手も先を読んで駒を進めている。
……まあでも、桂木が幸せだというのなら。当人たちが良いのなら、田口が口を挟むことではないのだろう。妙な好奇心を持たなければ、猫だって死ぬことはないのだから。
大きく手を振って、それから、昇降口を指さす。先に下で待っている、という意味だろう。綾瀬が手を振り返すと、優希は満足そうに笑って校舎の中へ消えていった。
幼い頃からずっと、優希の隣にいるためにはどうしたらいいかを考えてきた。誰かと比べられることすらないほど、優希にとって当たり前の存在になりたかった。そして今の優希は、自分の意思で綾瀬を好きだと言い、自分の意思で迎えに来てくれる──少なくとも、綾瀬はそう信じていた。
窓ガラスに映る綾瀬の表情が、ゆっくりと綻んだ。
「ほんとうに──ゆうは、おれのことが好きすぎるよね」
それはどう見てもお前の方だろ。
いつもなら胸の内にしまっておく言葉だったが、今日だけは、盤上で三度も心を折られた仕返しがしたくなった。
「結局、全部お前の思い通りになったってことか」
窓辺の綾瀬が、ゆっくりと振り返る。
「何のこと?」
「別に。可哀想な桂木、って思っただけ」
「どうして? ゆうは幸せそうだよ」
「そういうところだよ」
田口は小さくため息をつく。桂木はきっと、自分で綾瀬を選んだつもりでいる。けれど田口には、逃げ道を一つずつ塞がれ、最後にたった一つ残された場所へ、何も知らずに歩いていったようにしか見えなかった。田口から見れば、目の前の男は将棋盤の上だけでなく、人の心まで何手も先を読んで駒を進めている。
……まあでも、桂木が幸せだというのなら。当人たちが良いのなら、田口が口を挟むことではないのだろう。妙な好奇心を持たなければ、猫だって死ぬことはないのだから。


