因習村で贄やってるけど、思春期なので外に出ます

【面接】

「えっ、守田君、あの子安町の出身なの⁉︎」
 面接官は、居酒屋店長の宮井さゆりという女性で、見たところ四十代半ばといった感じだ。
 さゆりはかなりの話好きで、週何日働きたいとか、希望勤務時間をざっくり確認したあとは雑談のオンパレード。
 ちらっと田舎で世間を知らずに育ったことをしゃべったら、「一人で出てきたの」「田舎ってどこ」「どんなかんじ?」と雑談モードが止まらなくなった。志望動機もろくに聞かない破天荒ぶりである。
 カンジは子安町の出身であること、友達と一緒に大阪にでてきたこともするすると話していた。
 店長、さゆりのコミュニケーション能力の高さがうかがえる。
「子安町か〜! 去年大フィーバーやったよねぇ。なんかめっちゃテレビでみたもん」
「ああそれは、国勢調査の年やったからですね」
「国勢調査?」
 市町村ごとの細かい出生率は、五年に一度の国勢調査をもとに算出される。
 去年がその年だったので、子安町が一躍脚光を浴びたのだ。
「へー、さすが詳しいね。かしこなったわ」
 さゆりはあっけらかんと笑うと、唐突に面接官に戻った。
「じゃぁ、いろいろお話きかせてもらったので、面接の結果を発表していいかな」
「ええっ、今ですか」
 後日連絡がくるものとばかり思っていたので驚く。
「はい。第一印象から決めてました
! ぜひうちで働いてください」
「な、なんでしたっけそれ、プロポーズ大合戦⁉︎」
「惜しい惜しい! お見合い大作戦でした」
 ツッコミをいれてもらったさゆりが嬉そうにしている。
 勢いで突っ込んだあと、カンジは自分が合格をもらったことに気づいた。合格を単純に喜んだあと、ふと不安ぎ湧いてきた。
「あの僕、今まで包丁もろくに握ったことないですけど、ほんまにいいんですか」
「うちは未経験オッケーやから。それに十八歳の男の子なんか、包丁もったことないやつばっかりやで」
「えっ、なんでですか?」
「なんでって、ママがやってくれるからやんか」
 カンジは、自分ばかり特殊な経歴だと思っていたのがそうではないと知って衝撃だった。
「カンジ君は違うの?」
「あ、僕はその、血液型が珍しいっていうか、そういうので周りが過保護になって……」
「あー、知り合いにも一人いてるわ。まぁ、技術的なことは覚えていったらいいことやから」
 さゆりは安心させるように笑った。
「それより、守田君は礼儀正しいのと、何よりシャツにアイロンかかってるのがいいよ。飲食は清潔感が大事!」
 カンジに自覚はなかったが、神への献上品として教え込まれた立ち居振る舞いは、ストイックささえ感じさせる一種の魅力になっていた。
 そしてすこしふくよかな体がそのストイックさを中和して、不思議なバランスで成立している。これを神の感覚でまとめると「カンジ君かわいい」に集約されるのだが。
「じゃぁ早速あしたから来てくれるってことでいい?」
「はい、よろしくお願いします」
「そろそろ準備始まるから、どんなことしてるか見てって」
 店舗のテーブルから立ち上がり、キッチンの方へ案内する。
 さゆりが姿を見せると、「ゆりちゃん店長、お疲れ様です」と方々から声があがった。
「ゆりちゃん店長って、私が呼ばせてるわけじゃないから悪しからず」
 店長、すごいいい人やし、雰囲気もいい。カンジは、ちょっとやっていけそうかも、と胸をなでおろした。
「みんな! あしたからうちに来てもらう守田カンジ君です。めっちゃフレッシュな十八歳ですので、よくしたってね」
 さゆりがキッチン全体にカンジを紹介してくれる。さゆりの声に反応して、みんながいっせいにカンジをみた。
 あ、なんやろ、落ち着く。
 一対一の雑談より、その他大勢の視線の方が落ち着く。
 祭壇の中央、神輿の上。子安町でのカンジのポジションは、そういう場所だった。そのた大勢の視線を浴びる場所。
「守田カンジです。明日からお世話になります」
 カンジはゆっくり頭を下げた。このゆっくりは、幼い頃から刷り込まれた儀式のテンポ。
 ほんの一つの動作だが、ちょっと特別な空気を周囲に感じさせるのに十分だった。

 *

「ただいまー」
 あ、シアンもう帰ってる。
 玄関の鍵があいていたので、そのまま中に入ると、シアンが「おかえり」と声をかけてくれた。
 ここに帰ってくればシアンがいるというのは本当に心強い。
 外は不安もいっぱいあるけど頑張ろうと思える。
「シアン君もおかえり。早かったんだね」
「うん、派遣は面接もないし。登録っていっても流れ作業みたいなもんやったから」
 シアンは初めての土地でも余裕そうやな。カンジはシアンのスマートな様子がちょっとうらやましくなる。
 テーブルの上を見ると、近所のスーパーの袋がのっていた。中身はどうやら今晩のご飯らしい。
「しかも買い物まで済んでるし」
 カンジの声に、自然と申し訳なさが滲む。すると、シアンが先回りするように「暇やったから」とフォローを入れてきた。
 どこまでもスマートな奴め。
「それより、カンジ君は大丈夫やった?」
「大丈夫って、どういうい意味?」
 もしかして、面接でやらかすと思われていたのか。なにかやらかしたんちゃうかと、そういう意味か。
「あのあとカンジ君の受けた店のこと調べたんやけどさ」
 どうやらシアンによると、カンジのバイト先である居酒屋「帰魚来」は、大阪に三店舗展開しているらしい。
 そして、別の店舗の口コミがよくなかった。厨房から怒鳴り声が聞こえたとか、店長の対応が悪かったとか。
 カンジのやらかしを心配していたわけではなかったようだ。よかった。
「僕の受けた店は、店長が女の人でめちゃくちゃ感じ良かったよ。みんな仲良しっぽかったし」
「そっか。それやったら良かった」
 シアンが納得したようだったので、もう一度さっきの買い物袋をみた。ちらっとみて気になったことがあったのだ。……やっぱり。
「なぁなぁ、ちょっと気になったこといっていい?」
 一緒に暮らし始めてから、ご飯のたびにあれ、と思っていたのだ。でもまぁそういう日もあるかと思ってスルーしていたのだが、こう毎回だとやっぱりおかしい。
 テーブルの上の買い物袋、その中身はどう見ても少ない。二人前は絶対にない。小柄な女性ならばこれ二人食べられるかもしれないが、年齢的にはカンジもシアンも食べ盛りの男子。ましてシアンはかなり大柄な部類だ。
 そして多分、シアンはこのご飯を半々に分けるつもりじゃない。カンジに多くくれるつもりだ。
「シアン君さ、ご飯の量、少なくない?」
「あー、うん。ほら僕、もう成長期は終わってるから」
「どんな理由⁉︎ 成長期は終わったとしても体がおおきい分いっぱい食べなあかんのでは⁉︎」
「燃費いいんやと思う」
「プリウスか! 日本が誇る低燃費か! あれでも、シアン君が少ないんじゃなくて、僕が食べすぎてる可能性もあるよな?」
「カンジ君の食事量は適正やから」
 カンジが自分の体型をかえりみて食事量を疑ったところ、やけにキッパリ「適正」だと言い切られた。
「ほなやっぱりシアン君が少なすぎなんちゃう?」
「僕は、これで大丈夫な体質なんです」
 カンジはガルル……ともう少し噛みつこうかと思ったが、やっぱりやめた、と力を抜いた。
「あとさ、もう一個いい?」
「な、なに」
「ふたりで暮らしてたらさ、めっちゃ名前呼ぶやん。それでさ、シアン君って呼んでたらテンポ悪いからさ……。シアンって、呼んでもいい?」
 シアンが、キラキラに破顔した。